オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第158回は「代理店」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑「もしもし? ここは旅行代理店と保険代理店のどっちかって? たぶん旅行代理店です...」
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「代理店」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. agency
2. agent
3. dealer
4. distributor
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、主に4つの訳語が見つかりました。この中で圧倒的に多かったのはほぼ同じスペルの agency と agent です。どちらも本当に「代理店」なのでしょうか?
以下では、代理店以外に使われる agent の例や dealer と distributor の違いも含め、「代理店」の英語について分かりやすく説明します。
Agency と Agent の違い
まず、日本で「代理店」と呼ばれているお店すべてに当てはまるかどうかは分かりませんが、基本的に英語では代理店を agency、代理業者 (=代理業をする人) を agent と呼ぶのが普通です(「業者」という日本語は会社や商店の意味で使われることが多いですが、本当はこのように人を意味する言葉です)。
ただ、少なくともイギリスには estate agent (不動産業者またはその人の事務所) や newsagent (新聞や雑誌を売る人またはその人のお店) のように agent が人だけでなく場所の意味で使われることもあります。これらは本当は estate agent's (office) や newsagent's (shop) のように少なくとも所有格の 's を付けないと事務所やお店の意味にならないのですが、人ではなく場所の話だと分かる状況では付けなくても使えます。
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↑イギリスにある『VG Estate Agent』という不動産屋。このように名称に agent が含まれていることも多い。
このような例外はあるものの、場所の意味では大きさや従業員数に関係なく1人代理店でも agency を使うのが普通です(この単語には「代理業」の意味もあります)。そのため、例えば「広告代理店」は advertising agency、「保険代理店」は insurance agency、「旅行代理店」は travel agency、そして今説明した「不動産屋」も (real) estate agency と表現するのが無難です(real を付けるのはアメリカ英語)。
なお、上の説明に出てきたイギリスの newsagent の場合は news agency と表現すると「通信社」という全く別の場所になってしまうので注意が必要です。また、agent という単語は代理業者だけでなく前回説明したコールセンター系の窓口担当者などにも使われます。
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↑前回の #157 カスタマーサービスやテクニカルサポートの『担当者』は英語で何と言う? でも登場した agent たち。
Dealer と Distributor の違い
では、同じく今回見つかった dealer と distributor も「代理店」なのでしょうか?
主な英和辞書で「商人」や「ディーラー」と訳されている dealer は、distributor から商品を買って消費者に売る人を意味します(「販売業者」と訳している辞書もありますが、「売買業者」と表現するほうが正しいと思います)。一方、distributor はメーカーから商品を買って dealer に売る業者/会社を意味します(主な英和辞書で「流通業者」「配給業者」「卸売業者」「(販売)代理店」などと訳されています)。
日本で「代理店」と呼ばれているお店の中にはこれらの表現が適切なものもあるかもしれませんが、dealer の場合はお店(特約店など)の意味を明確にしたければ dealership (ただし「販売権」の意味もあり) または所有格を付けて dealer's と表現するほうがいいと思います。一方、distributor は人ではなく会社を意味するほうが普通だと思いますが、同じく「販売権」や場所を意味する distributorship という単語があります。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで「代理店」の英語表現の違いが分かりやすくなったかもしれません。
agency は日本語で「代理店」とは呼ばない「派遣会社」などにも使われる単語ですので、例えばイギリスなどで「派遣労働者」を意味する agency worker を「代理店で働いている人」と誤解しないよう注意しましょう(詳細は #93 『派遣社員』の英語は本当に temporary worker? を参照)。