オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第135回は「ビーチサンダル (通称ビーサン)」や「ゴム草履 (ぞうり)」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑ビーチ (浜辺) で履くのに適したサンダルだから「ビーチサンダル」。そう呼ぶのは本当に和製英語?
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「ビーチサンダル」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. beach sandals
2. beach shoe
3. flip(-)flop(s)
4. jandals
5. pluggers
6. slipper
7. thong(s)
ABCアカデミー
Chisa & John
DMM英会話なんてuKnow?
英語の微妙な感覚を学ぶ ネイティブ英会話!
英辞郎 on the WEB(辞書)
エイコミュ
goo(辞書)
発onライン
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Language study changes your life. -外国語学習であなたの人生を豊かに!-
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
STUGLISH -英語勉強ブログ-
植田英語英会話便り
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、主に7つの訳語が見つかりました。この中で圧倒的に多かったのは1の beach sandals と3の flip(-)flops です。辞書サイトではどちらも多く見られましたが、英語学習サイトのほとんどは「ビーチサンダル」を和製英語と説明していました。英語圏で beach sandals という表現は使わないのでしょうか?
以下では、どの辞書・サイトも載せていなかった表現も含め、「ビーチサンダル」や「ゴム草履」の英語について分かりやすく説明します。
Flip-Flops とは
まず、ビーチサンダルの元となるゴム草履は1人のアメリカ人の依頼によって1952年に日本で開発され、ハワイなどアメリカで販売された後に日本でリメイク版が売られて「ビーチサンダル」と呼ばれるようになったようです。アメリカでは beach sandals (両足に履くので複数形) という表現は使われていなかったため、ゴム草履を「ビーチサンダル」と呼ぶのは確かに和製英語 (=日本で作られた英語) だと言えるでしょう。
その草履スタイルのサンダルは歩くときに裏のかかと側が地面を叩いて「パタパタ」と鳴ることから、アメリカやイギリスでは擬音語で flip-flops と呼ばれています(ハイフンは省略可)。ゴム草履のように「ゴム製」と言いたければ rubber (ゴム) を付け、「1足」であれば "a pair of rubber flip-flops" と表現します。
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↑ビーチサンダルの元となるゴム草履は日本で人々が履いていた草履(この写真はその当時のものではないが...)を見たアメリカ人が考案して日本で作られたもの。
Thong(s) とは
さて、今回調べた辞書・サイトの中にはイギリスでビーチサンダルを thongs と呼ぶかのような説明をしているものもありましたが(『DMM英会話なんてuKnow?』)、これはオーストラリアの間違いです。thong は革やゴムの「細長い一片」を意味する単語で、草履スタイルのサンダルは鼻緒がそのような細長いひもでできているものが多いことから thongs と呼ばれています(これも両足に履くので複数形で表します)。
この表現はアメリカでも以前は普通に使われていたようですが、大部分が細長い布/ひもでできた下着のパンツ(Tバックの一種)が一般的に thong (細すぎて両足用に見えないためかこれは単数形で表現) と呼ばれるようになってからは、変な誤解をされないようビーチサンダルは flip-flops と呼ぶのが普通です。なお、sandals や slippers (スリッパ) を付けて thong sandals や thong slippers と呼ぶ人もいます。
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↑赤い thong を洗濯機に入れる人。履いている写真は危険すぎて載せることができない...
Beach Sandals という表現は本当に英語圏では通じない?
次は、beach sandals という表現についてです。今回調べた辞書・サイトのうちほぼすべての英語学習サイトでこれを「和製英語」や「英語圏では通じない」のように説明していましたが、それはあくまで鼻緒のある草履スタイルのビーチサンダルに限った場合です(英語圏でも通じる地域はどこかにあると思いますが...)。
sandals と flip-flops の違いについて説明したいくつかの英語サイトでは、足の甲(とかかと)をストラップなどで固定して靴底と足の裏が常に密着しているタイプ(ハイヒールなど厚底のものも含む)が sandals、薄底で鼻緒しかない草履スタイルのものが flip-flops と説明されています(厳密には flip-flops は sandals の一種ですが、sandals とは分けて flip-flops と呼ぶべきと言いたいのだと思います)。
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↑かかと側も固定するこのようなビーチ用のサンダルは、歩くときに「パタパタ」と音がしないため flip-flops と呼ぶのは適切とは言えない(ただし薄くて安っぽいこのようなサンダルはすべて flip-flops と呼んでしまう人もいる)。また、ストラップが細くないため thongs と呼ぶのも適切とは言えない。
ビーチ向けのサンダルを紹介したいくつかの英語サイトでは、flip-flops の他に slides/sliders や athletic sandals といったタイプも見られ、それらをまとめて beach sandals と表現しているサイトもあります。ただ、ビーチ向けのサンダルはほとんどが草履スタイルの flip-flops のため、sandals for the beach (ビーチ向けサンダル) を短くしたこの beach sandals という表現を一般の人が使うことは普通ないと思います。
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↑slides または sliders とはこのように鼻緒もかかと側のストラップもないサンダルのこと(ただし歩くときに裏のかかと側が地面を叩いて「パタパタ」と音が鳴りそうなものは flip-flops と呼んでも間違いとは言えない)。
お勧めのビーチサンダルを紹介した日本のウェブサイトでも草履スタイル以外のビーチ向けサンダルを載せているものがあることから、「ビーチサンダルは英語で何と言うか?」という問いに対する答えは「どのスタイルまでを『ビーチサンダル』と考えるか」によって変わると言えるでしょう(国語辞書も定義を「ゴムぞうり」に限定しているものから単に「海浜を散策するためのサンダル」と説明しているものまで幅があります)。
そして草履スタイル以外のものも含むあらゆるビーチ向けのサンダルを「ビーチサンダル」と考えるのであれば、それを beach sandals と表現するのは適切です。今回調べた辞書・サイトで beach sandals という表現をこのように総称として使えることを説明しているものは1つだけでした(『植田英語英会話便り』)。
「ビーチサンダル/ゴム草履」のその他の表現
最後は、ここまでの説明に出てこなかったその他の表現についてです。
今回見つかった主な訳語では jandals (Japanese と sandals の混成語) がニュージーランドで使われている表現で、pluggers はオーストラリアで使われることがあるようです。1つの辞書(『英辞郎 on the WEB』)だけが載せていた slipper (スリッパ) はアメリカのハワイやその他の一部の国でビーチサンダルに使われていますが、これも両足に履くので複数形で slippers と表現する必要があります。
ビーチサンダルとは限らない beach shoe (ビーチ用の靴) は2つの辞書が載せていましたが(『英辞郎 on the WEB』『Weblio』)、これも複数形で beach shoes と表現する必要があります。
今回調べた辞書・サイトが載せていなかったものでは、「草履」をアルファベット化して両足用に複数形にした zor(r)ies がアメリカの一部の地域で一時期使われていたり、公共のシャワールームやサウナで履くビーチサンダル風のサンダルを shower shoes と呼ぶ人たちもいるようです。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで「ビーチサンダル」の英語表現の違いが分かりやすくなったかもしれません。
英語を教える立場にある方は、「ビーチサンダル」の定義を明確にしないまま単に「ビーチサンダルは英語で beach sandals とは言いません」と断言してしまわないよう注意しましょう...