オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第39回は「ブラッシュアップ」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
◆更新履歴は「お知らせ」に載せています。
nuzrath nuzree / PublicDomainPictures.net
↑ホコリや汚れはブラシで落とせるが、ツヤは出せるだろうか?
まず、「学び直す」や「磨きをかける」という意味で使われる「ブラッシュアップする」という表現はオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の英語訳
1. brush up (on)
2. dress up
3. fine-tune
4. improve
5. polish up
6. revise
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ご覧のとおり、6つの訳語が見つかりました。辞書サイトでは細かな説明は見られませんでしたが、英語学習サイトのいくつかでは日本語の「ブラッシュアップする」と同じ意味で英語の brush up が使える場合と使えない場合について説明していました。
以下では、ビジネスの場面やウェブサイト上でも誤用が多く見られるこの「ブラッシュアップ」というフレーズの英語について分かりやすく説明します。
ブラッシュアップ vs Brush Up
まず、主な国語辞書で「ブラッシュアップ」という言葉は次のように説明されています。
この最後の「一定のレベルに達した状態からさらにみがきをかけること」という説明はその直前の文の「学問」や「腕や技」についてのものだと思いますが、日本では知識・技術に限らず商品やアイデアに磨きをかけるという意味でもこの「ブラッシュアップ」という表現がよく使われます(これから社会人になる学生向けの応援サイトの中にはこの意味での「ブラッシュアップ」を活用するよう推奨しているものまであります)。
一方、英語の brush up はどのような意味なのでしょうか? 以下はいくつかのオンライン英英辞書の説明を引用したものです。
Merriam-Webster
<他動詞>
to improve or polish as if by brushing
to renew one's skill in
例文: brush up your Spanish
<自動詞>
to refresh one's memory : renew one's skill
例文: brush up on math
Cambridge English Dictionary
<自動詞・他動詞の区別なし>
to improve your knowledge of something already learned but partly forgotten
例文: I thought I'd brush up (on) my French before going to Paris.
Collins English Dictionary
<自動詞と他動詞の区別あり ※ただし説明が長いので区別なしの箇所のみ抜粋>
If you brush up something or brush up on it, you practise it or improve your knowledge of it.
例文: I had hoped to brush up my Spanish. / Eleanor spent much of the summer brushing up on her driving.
1つめの辞書の "to improve or polish as if by brushing" という説明を見ると、比喩的な意味も含めブラッシングにより向上させたりツヤを出せるものであれば何にでもこの表現が使えるように思えてしまいます。
ところが、他の2つの辞書では対象を知識や技術に限定しているように、実際には以前学んだ知識や技術を取り戻したり伸ばすという意味で使われるのが普通で、Collins Thesaurus類語辞書では動詞の brush up の類語として revise(復習する ※アメリカ英語では review)を最初に挙げています。
Alexander Michl / Unsplash.com
↑以前学んだ神学の知識をブラッシュアップ中の男性。
Brush Up と Brush Up On はどちらが正しい?
今回訳語が見つかった英語学習サイトの中には brush up の後に on を付けずに "brush up my French" のように表現するのは誤りと説明しているものがありましたが、これは正しい説明ではなく実際には on を付けないほうが普通に感じる人も(少なくともイギリスには)います。
先ほどの3つの英英辞書の例文を見ても on を付けない他動詞用法が間違いではないことが分かりますが、(情報が少ないためはっきりとは言えませんが) カナダやオーストラリアでは on が必須のようです。
商品やアイデアに「磨きをかける」という意味で使われる「ブラッシュアップ」
日本人の中には不必要に英語を多用する人が少なからずいますが、この傾向は特にビジネスの場面で多く見られます(この「ビジネスの場面」を「ビジネスシーン」と表現するのがそのいい例で、これについては #23 『ビジネスシーン』や『アウトドアシーン』の『シーン (場面)』は英語で何と言う? で取り上げています)。
困ったことに、カタカナ英語の中には本来の英語の意味とは違う意味で使われているものも多くあり、以前学んだ知識や技術を取り戻したり伸ばすという意味で使われるべきこの brush up も「より効果的な企画にするためにアイデアをブラッシュアップする」などと誤用されています。
Christina Morillo / Pexels.com
↑より効果的な企画にするためにアイデアをブラッシュアップ(?)する女性たち。
「磨く」をそのまま英語にすればいい
では、このような場合の「ブラッシュアップする」は英語で何と表現すればいいのでしょうか? 今回見つかった訳語の中で最も意味やニュアンスが近いのは5番目の polish up (磨き上げる) です。もちろん、製品など有形物を本当にゴシゴシ磨く意味と誤解されそうな状況では improve などを使うほうがいいでしょう。
ただ、このような場合の「ブラッシュアップ」は「磨き上げる」ではなく「磨きをかける」という意味のため、up を付けずに "polish the idea" のように表現するだけで十分です。先ほどの1つめの英英辞書の説明でも "to improve or polish as if by brushing" となっており、up が特に必要ではないことが分かります。
今回調べた辞書・サイトで「ブラッシュアップする」の英語に polish up を載せているものはいくつかありましたが、polish だけを載せているものはありませんでした(もちろんすべての辞書・サイトが「商品やアイデアに磨きをかける」という意味でのブラッシュアップについて説明していたわけではありません)。また、同じくアイデアやデザインに磨きをかける意味で使える refine を載せている辞書・サイトもありませんでした。
なお、dress up は「飾り立てる」や「よく見せる」という意味のためブラッシュアップとは違い、fine-tune は「微調整する」という意味のためブラッシュアップよりも向上させる度合いが小さいと言えるでしょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回説明した「ブラッシュアップ」の誤用時における正しい英語表現が多くのオンライン和英辞書に載ることを期待したいと思います。
「ブラッシュアップ」や「ビジネスシーン」といったカタカナ英語を多用されている方は、これを機にもっと自国の言語に誇りを持ってできるだけ日本語で表現するよう心掛けるか、どうしても英語を使いたい場合はできるだけ正しい意味のものだけを使い、先ほどの例であれば「より効果的な企画にするためにアイデアをポリッシュする」と表現するのがいいでしょう。