オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第51回は「お問い合わせ」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑英語サイトでよく目にする "CONTACT US"。「アメリカに問い合わせてください」という意味ではないので注意しよう...
まず、日本のウェブサイトのメニューによく見られる「お問い合わせ」という言葉はオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の英語訳
1. Contact
2. Contact Us
3. Enquiries / Enquiry
4. Inquiries / Inquiry
bab.la(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
Glosbe(辞書)
Linguee(辞書)
日刊英語ライフ
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、Enquiry と Inquiry の単数・複数形を1つにまとめると4つの訳語が見つかりました。これらを見て何か疑問に思うことはないでしょうか?
以下では、どの辞書・サイトでも見落とされていた点も含め、「お問い合わせ」の英語について分かりやすく説明します。
Contact ≠ 問い合わせる
まず、自分のウェブサイトを見た人から感想や提案ではなく問い合わせだけを受け付ける目的で「お問い合わせ」ページを作った場合は、それを "Contact" と表現するのは適切ではありません。なぜなら、contact は不明点について尋ねる (=問い合わせる) だけでなく他の目的で連絡する場合にも使われる単語だからです。
本当に「問い合わせる」を意味する動詞は enquire と inquire で、その名詞の「問い合わせ」が enquiry と inquiry です。製品やサービスについて質問するこの「問い合わせ」には、アメリカでは inquiry、イギリスでは enquiry を使うのが普通です(イギリスでは取調べで質問することなどに inquiry を使います)。
ウェブサイト側に連絡する目的は問い合わせ以外にも意見・要望を伝えることや問題の報告などいろいろあるため、英語圏のサイトでは Contact ページ内に "General Inquiries/Enquiries" (一般的なお問い合わせ) や "Requests/Complaints" (要望・苦情) を設けているものがあります。そして「お問い合わせフォーム」であれば inquiry/enquiry form と表現されます(これは次に説明する contact form とは違います)。
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↑「本日はどのようなお問い合わせでしょうか?」「えーと、Contact Us って書いてあったから連絡しちゃいました...」
そもそも「お問い合わせ」というメニューは正しい?
最初に書いたとおり日本のウェブサイトの多くには「お問い合わせ」というメニューがありますが、そのようなサイトは本当に問い合わせだけを受け付けているのでしょうか?「ご意見・お問い合わせ」のように分けて書いているサイトもありますが、「お問い合わせ」ページの中に「ご意見、情報の提供」などの項目を含めているサイトの場合は、「お問い合わせ」というタイトル自体が適切とは言えないのではないでしょうか?
また、サイト管理者やサービス提供者に連絡するための入力フォームを英語では contact form と表現するのに日本語では「お問い合わせフォーム」と表現するのはなぜでしょうか? 紙ではないため form を「用紙」と表現するのは適切ではなく、「画面」と表現するとページ全体の意味になってしまうためカタカナで「フォーム」と表現するのは仕方ないとして、「お問い合わせ」の部分はもっと適切な表現にできないのでしょうか?
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↑contact form には問い合わせ (=不明点について尋ねること) 以外に感想や提案などを入力して送信してもいいのだ。
そこで、contact という単語を「連絡」と考えて「連絡(用)フォーム」と表現すると、サイト側に何かを伝えるためのフォームに思えて今度は「連絡ではなく問い合わせをしたいのですが...」と言いたくなる人がいるかもしれません。また、先ほどの「お問い合わせ」メニューを「ご連絡」と表現すると逆にサイト側からの連絡事項を載せたページのようにも思えてしまいます。contact は「連絡」とは違うのでしょうか?
Contact とは
主な国語辞書を見ると分かりますが、「連絡」という日本語は本来は情報や気持ちなどを相手に「知らせる」ことを意味します。知らせるにはまずその相手に接触する必要がありますが、この「接触」の英語が contact です。だからといって例えば「彼に接触してみます」と言うと何だか容疑者に接触する刑事のように聞こえてしまうため、私たちは何かを知らせる目的でもないのに「彼に連絡してみます」と言うのではないでしょうか?
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↑「この度はご接触いただき誠にありがとうございます」「そんなに触られるのが好きなんですか?」
日本のウェブサイトの多くがメニューで「お問い合わせ」という言葉を使うのは、「ご接触」はもちろん「ご連絡(窓口)」などの表現に違和感があるからだと思います。当ブログではお問い合わせよりも投稿内容に誤りがある場合に連絡してもらうことを目的として (Q&Aとセットで)「Q&A/連絡先」と表現していますが、連絡先アドレスなどを載せていないのに「連絡先」としているのはこの表現が一番自然に感じたためです。
もしウェブサイトで質問以外に感想や誤りの指摘なども受け付けている場合は、メニュー名を「お問い合わせ」だけにするのは本当は正しくありません。ただ、他にシンプルで違和感のない日本語が見つからないのであればそう表現するしかなく、その場合の「お問い合わせ」の英語は確かに "Contact (Us)" になるのです。
1人なのに Contact Us?
最後に、英語圏の多くのウェブサイトで "Contact Us" という表現が使われているからといって、自分1人で運営しているサイトでもそのままこの表現を使ってしまわないよう注意が必要です。"Us" はもちろん「私たち」という意味のため、1人で運営しているサイトの場合は "Contact Me" と表現すべきであり、実際に英語圏のブロガーのサイトなどでこの表現が使われています。
今回訳語が見つかった辞書・サイトのページは必ずしもウェブサイトのメニューとしての「お問い合わせ」の英語を説明したものではありませんが、この "Contact Me" を載せているものはありませんでした。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回説明した「お問い合わせ」の英語表現の違いや日英表現のギャップが多くのオンライン和英辞書に載ることを期待したいと思います。
ウェブサイトの運営や管理をされている方は、今回の内容を読んで「連絡」と「接触」の違いが理解できたからといってコンタクト用フォームを「ご接触フォーム」などと表現してしまわず、適切と感じる日本語の表現を自分で考えて使うのがいいでしょう。