オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第129回は「契約社員」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
◆更新履歴は「お知らせ」に載せています。
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↑雇用契約 (employment contract) を結んで社員 (employee) になる人。だから「契約社員」は contract employee?
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「契約社員」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. contract worker
2. contract(ed) employee
3. contractor
4. fixed-term employee
5. permatemp
bab.la(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
英辞郎 on the WEB(辞書)
英会話スクールBEGIN
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
PARAFT
フィリピン在住のPinaさんのブログ
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、主に5つの訳語が見つかりました。この中で圧倒的に多かったのは contract employee で、次いで多かったのは contractor です。これらは本当に「契約社員」なのでしょうか?
以下では、「有期契約社員」と「無期契約社員」の違いや「嘱託社員」の表現も含め、「契約社員」の英語について分かりやすく説明します。
「有期契約社員」と「無期契約社員」の違い
まず、日本の雇用形態は「正社員」と「非正規社員」に大きく分かれ、非正規社員はさらに「契約社員」「嘱託社員」「派遣社員」「パート/アルバイト」などに分かれています。
そして契約社員やパート/アルバイトは派遣社員と違って勤務先の会社と雇用契約を結んでいる社員ですが、正社員と違って契約期間が(1年など)有期となっており、その契約を更新し続けた5年目以降の更新時には会社が正社員にしてくれなくても契約を無期に切り換えられるようになっています。そしてこの切り換えをした契約社員は正確には「無期契約社員」、まだ切り換えていない契約社員は「有期契約社員」と呼ばれています。
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↑「スミマセン、日本の『契約社員』どういう意味ですか?」「勤務先の会社と雇用契約を結んでいる人のうち、正社員でもなければ嘱託社員やパート/アルバイトでもない人たちで契約が有期または無期の人たちのことよ。少し難しすぎるかしら?」
「契約社員」は英語で何と言う?
さて、アメリカやイギリスでは有期で雇用契約を結んでいる社員を「契約社員」「嘱託社員」「パート/アルバイト」のように分けないため、残念ながら日本の「契約社員」に該当する英語はありません。
英語で「契約」は contract、「社員」は employee (正確には「雇用されている人」) と表現するため、日本では「契約社員」の英語を contract employee と直訳してしまうのが普通です。一方、アメリカやイギリスでこの表現は日本の契約社員とは全く違う contractor と誤解される可能性が高いので注意が必要です。
この contractor は仕事を「請け負う (=期限や報酬を決めて仕事を引き受ける)」人や会社のことで(つまりこの場合の contract は「契約」ではなく「請負」の意味)、仕事をフリーランス/個人事業主として請け負う independent contractor と請負/派遣会社の一員として請け負う agency contractor に分かれます。
この人たちは請負契約を結んだ会社に出社して働く場合でもその会社に「雇用」されているわけではないため、略さないのであれば contract(ed) worker (請負労働者) と表現されるべきです。ただ、社員同様に考えて contract employee と表現されることもあるようです(日本でも「請負社員」と呼ぶのと同じです)。いずれにしても、英語圏の人が使うこれらの言葉を日本の「契約社員」と誤解しないよう注意が必要です。
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↑「どうも、コントラクターのMikeです」「あー、新しく入社された契約社員の方ですかー」
Fixed-Term Employee や Permatemp は何?
最後に、今回見つかった主な訳語には fixed-term employee と permatemp も含まれていましたが、これらはそれぞれ何を意味するのでしょうか?
fixed-term employee (有期社員) は先ほどの「有期契約社員」とほぼ同じ表現ですが、日本には無期の契約社員や逆に有期の嘱託社員やパート/アルバイトもいるため、この表現はその会社に正社員と有期契約社員しかいない場合にしか使えません。有期の嘱託社員やパート/アルバイトもいる会社の場合は、有期の契約社員は ordinary fixed-term employee (普通の有期社員) のように区別して表現するしかないと思います。
一方、permatemp は permanent (永久の) と temporary (臨時の) の混成語で、permanent employee (無期契約の社員) のような temporary employee (臨時社員) という意味で少なくともアメリカでは使われている比較的新しい言葉のようです。日本の場合は契約社員だけでなくパート/アルバイトでもそのような人は結構いると思いますので、この表現も契約社員だけを意味する言葉としては使えないでしょう。
なお、「嘱託社員」は定年退職後に再雇用された人たちが多いと思いますので、その場合は rehired retired employee と表現するか、他の人も含む場合は special fixed-term employee とでも表現すればいいと思います。entrusted employee と表現しているサイトや文書もありますが、これも contract employee と同じく日本では使えてもアメリカやイギリスでは単に「委任された社員」と解釈されるだけでしょう。