オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第61回は「栄養ドリンク」や「エナジードリンク」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑「何だって? 日本の energy drink には種類があって、そのうちの1つだけが『エナジードリンク』だと? オーマイガー」
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」はそれぞれどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. energy drink
2. nutritional (supplement) drink
3. vitamin drink
インターネット上の英語訳
1. energy drink
DMM英会話なんてuKnow?
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
RNN時事英語辞典(辞書)
そうなんだ。外国語で知ったこと。
Weblio(辞書)
Yahoo!知恵袋
ご覧のとおり、「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」のどちらにも energy drink が含まれています。ということはこの2つの飲み物は全く同じなのでしょうか?
以下では、どの辞書・サイトも載せていなかった表現も含め、「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」の英語について分かりやすく説明します。
「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」の違い
まず、日本語版ウィキペディアの『栄養ドリンク』のページや主な国語辞書では「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」を同じものとして説明しており、「ドリンク剤」という別名の記載も見られます。
一方、2017年出版の『どれ飲む?いつ飲む?エナジードリンク・栄養ドリンクのすべて』(松永 政司/深野 真季子 著) という本では、(栄養/エナジードリンクに明確な定義はないと説明した上で) 栄養ドリンクは「医薬系」と「非医薬系」に分かれ、エナジードリンクは「非医薬系」の「炭酸飲料」に属すると説明しています。そして「医薬系」は容量によって「ドリンク剤」と「ミニドリンク剤」に分かれることもあると書いています。
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↑コーラと同じ「炭酸飲料」に分類されるのが「エナジードリンク」。
ところが、栄養ドリンクとエナジードリンクの違いを説明した多くのウェブサイト(栄養ドリンクメーカーのサイトも含む)では、炭酸飲料に分類されるものを「エナジードリンク」と説明しているものの、医薬系の「医薬品」と「医薬部外品」に分類されるものが「栄養ドリンク」または「ドリンク剤」と説明しています。
この最後の考え方が今の主流だとすれば、英語で energy drink (精力を増進する飲み物) と呼ばれるタイプの飲料が日本では少なくとも「A. 医薬品の栄養ドリンク」「B. 医薬部外品の栄養ドリンク」「C. (炭酸飲料の) エナジードリンク」の3つに分かれていることになります(厳密にはBは「指定医薬部外品」ですが、基本的に医薬部外品と同じため以降でも「医薬部外品」と表現します)。
「エナジードリンク」は英語で何と言う?
では、清涼飲料水の「炭酸飲料」に分類されるCの「エナジードリンク」は英語で何と言うのでしょうか? 実は日本の energy drink の種類について説明した英語のウェブサイトはいくつかあり、その中でこのタイプは carbonated energy drink (炭酸エナジードリンク) と表現されています。単に energy drink と表現すると「栄養ドリンク」や「ドリンク剤」にも該当してしまうため、carbonated を付けているわけです。
なお、エナジードリンクは缶のものが多いですが、小瓶入りで同じく精力を増進させるための清涼飲料水は昔から存在しており、「スタミナドリンク」として主な国語辞書にも載っています。昔のスタミナドリンクがすべて炭酸系だったかどうかは分かりませんが、「エナジードリンク」は単にスタミナドリンクを(缶タイプの普及に合わせて)正しい英語表現に言い換えたものかもしれません。
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↑「エナジードリンク」に分類されるこれらの飲料の容器には「炭酸飲料」の記載がある。(お店でチェックしてみよう)
「栄養ドリンク」は英語で何と言う?
では、医薬品と医薬部外品に分類されるAとBの「栄養ドリンク」(普通は小瓶入り) は英語で何と言うのでしょうか? 先ほどの英語サイトでは、Aの医薬品の栄養ドリンクを pharmaceutical energy drink、Bの医薬部外品の栄養ドリンクを quasi-drug energy drink と表現しています。pharmaceutical は「医薬品の」、quasi-drug は「医薬部外品の (=医薬品に似た)」という意味のため正しい表現だと言えるでしょう。
つまり、医薬品タイプと医薬部外品タイプのどちらにも該当する「栄養ドリンク」(または「ドリンク剤」) という日本語は、英語に訳すと pharmaceutical or quasi-drug energy drink になると言えます。「等級 (グレード)」を意味する grade を付けて pharmaceutical grade or... とするほうが意味がより明確になりますが、表現がさらに長くなるので省略していいと思います。
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↑これらの「栄養ドリンク」の容器や箱には「医薬品」または「指定医薬部外品」の記載がある(「医薬品」タイプはスーパーやコンビニには置いていない場合あり)。
Energy Drink, Nutritional Drink, Health Drink の違い
ここまで説明してきた「エナジードリンク」と「栄養ドリンク」の英語にそれぞれ上の carbonated energy drink と pharmaceutical or quasi-drug energy drink を載せている辞書・サイトはありませんでしたが、両者を区別して説明する必要のない状況ではどちらも単に energy drink と表現していいと思います。
一方、栄養ドリンク (=医薬品・医薬部外品) とエナジードリンク (=炭酸飲料) を別物として分けている文書を翻訳する場合などは、それぞれ nutritional drink と energy drink と訳さないよう注意が必要です。なぜなら、nutritional drink や nutrition drink という表現には「医薬品・医薬部外品」の意味はなく、energy drink は先ほど説明したとおり医薬品・医薬部外品の「栄養ドリンク」にも該当する表現だからです。
なお、栄養ドリンク、エナジードリンク、ビタミン系飲料などを集めた棚を「ドリンク剤/Health Drink」と表記しているお店もありますが、この health drink という言葉は energy drink の他にスムージー、野菜ジュース、お茶、乳酸菌飲料などに使われることもあります。また、「剤」という漢字は薬に使うのが普通のため、エナジードリンクなど清涼飲料水も含む棚を「ドリンク剤」と表記するのは適切でない気がします。
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↑health drink (健康ドリンク) という言葉はスムージーや野菜ジュースなどに使われることもあるので注意しよう。
今回主に取り上げた精力増進を目的とする飲料は英語では nutrition(al) drink (栄養ドリンク) ではなく先ほど説明したとおり energy drink (精力ドリンク) と呼ぶのが普通ですが、それを日本では「栄養ドリンク」や「ドリンク剤」と呼んできたのに加え、「エナジードリンク」という新しいタイプまで登場したことが私たちを混乱させる原因になっていると言えるでしょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回説明した「栄養ドリンク」と「エナジードリンク」の違いや適切な英語表現が多くのオンライン和英辞書に載ることを期待したいと思います。
薬局にお勤めの方は、もし買い物客に英語で "Do you have energy drinks?" と聞かれても「炭酸飲料」に分類される「エナジードリンク」のことだと決めつけず、念のため "Pharmaceutical grade ones or carbonated ones?" のように医薬系と炭酸系のどちらが欲しいのかを確認するといいかもしれません(医薬系にもうっすらと炭酸は入っていますが...)。