#177 『経験(する)』と『体験(する)』の英語は両方とも experience?

オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第177回は「経験」「体験」の英語についてです。

◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。

Rawpixel / Rawpixel.com

↑「インターネットで洋服を買った体験はありますか?」「あ、それ『買った経験』とか『買ったこと』のほうが自然だよ」


まず、分かりやすい例として「買った経験があるか」の意味で使われることがある「購入経験」という日本語と買いやすさなど「買うときの体験」の意味で使われることがある「購入体験」(または「購買体験」) という日本語はオンライン和英辞書や英語学習サイトでそれぞれどう英語に訳されているのでしょうか?

見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。

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「購入経験」
インターネット上の英語訳
1. buying experience
2. purchase experience
「購入体験」
インターネット上の英語訳
1. buying experience
2. purchase experience
訳語を載せた辞書・サイト
英辞郎 on the WEB(辞書)
Reverso Context(辞書)
※主なオンライン和英辞書とGoogle検索結果(キーワード:「購入経験 英語」「購入体験 英語」)の1ページ目に表示されたサイトを中心に調べています(◎本日以降に該当ページの内容が更新されている可能性があります)。検索語単体の英語訳の正誤を確認するのが目的のため、検索語を含むフレーズや例文などは調べていません。

ご覧のとおり、どちらも buying/purchase experience という訳語が見つかりました。これでは購入経験と購入体験を英語で区別できないではありませんか? また、「多くの仕事を経験しました/体験しました」のような場合の「経験」と「体験」は英語でどう区別すればいいのでしょうか?

以下では、「運転経験/運転体験」や「使用経験/使用体験」の表現も含め、「経験」と「体験」の英語について分かりやすく説明します。

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「経験」と「体験」の意味が似ている場合

まず、例えば「多くの仕事を経験しました/体験しました」という日本語はどちらも experience という動詞を使って "I('ve) experienced many jobs" と言いたくなりますが、日本語では「仕事から経験を得る (=知識や技能を得る)」という意味で「仕事を経験する」と普通に表現できるのに対し、英語では experience という動詞をこの「経験を得る」の意味では普通使いません(感情や状況を経験/体験することに使います)。

一方、「(仕事の)経験」という名詞は英語でも (work) experience と表現できますが(ただしこのフレーズはイギリスでは「就業体験」の意味でも多く使われるので注意)、職場で経験したいろいろな出来事であれば複数形で experiences と表せるものの、「得た知識や技能」という意味での経験の場合はさまざまな仕事を経験しても身に付けたもの全体を意味するため不可算名詞 (数えられない名詞) として単数形で表します。

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↑真面目に働かずクビにされた経験など1つ1つの出来事であればそれぞれ "an experience" またはまとめて "experiences" と表現できるものの、得た知識や技能から成る「経験」の場合は数えられないため不定冠詞も複数形も使えない。

つまり、例えば「いろいろな仕事を経験しました」と言いたい場合は「経験する」に動詞の experience を使うのではなく、"I have experience with many different jobs" (いろいろな仕事の経験があります)、"I got experience from many different jobs" (いろいろな仕事から経験を得ました)、"I have had many different jobs" (いろいろな仕事に就いてきました) のように表現します。

一方、「仕事を体験する」の動詞には experience を使えますが、「やってみる/試す」という意味であれば try を使って例えば "I want to try my hand at many different jobs" と表現します。同じくソフトウェアの「体験版」も experience version ではなく trial version (試用版) と表現しますが、このように「経験」と「体験」という日本語の使い分けは特に外国人にとっては分かりづらいと思います。

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↑「ほら、よく『体験者は語る』って言うでしょ?」「いやそれ『経験者』だよ」

「経験」と「体験」の意味が全く違う場合

では、冒頭で挙げた例のように「経験」と「体験」の意味が全く違う場合はどうすればいいのでしょうか?

例えばアンケートを英語で実施する立場で「Q1. 年齢をお知らせください」「Q2. 性別をお知らせください」などの質問に続けて「Q8. ○○を購入されたことはありますか?」という質問を作成した場合、この質問自体は "Q8. Have you ever purchased ○○?" と表現すればいいですが、どのような質問をしたのかを英語しか話せない同僚に簡潔な項目名で伝える場合はどうすればいいのでしょうか?

日本語ではこの項目名は「Q1. 年齢」「Q2. 性別」と続いた後に「Q8. 購入経験」となりますが、これを "Q8. Purchase Experience" と表現すると購入時の買いやすさなどを意味する「購入体験/購買体験」の質問をしたのかと誤解されるかもしれません。そこで、この場合にはどの辞書・サイトも載せていなかった purchase history という表現を使うのが最適です(これは通販サイトなどの「購入履歴」にも使われる表現です)。

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↑例えばこの "Medical History" は「病歴」という意味。

なお、「購入」の英語には今回見つかった訳語のように buying (buy の動名詞) と purchase のどちらも使えますが、purchase は例えば「コンビニでおにぎりを購入しました」のような場合の日本語と同じく商品や状況によっては硬すぎる感じがあるため、少なくとも普段の会話では buy を使うのがお勧めです(先ほどのアンケートの質問も普段買うような商品であれば "Have you ever bought ~?" と尋ねるほうが自然です)。

その他、「運転した経験があるか」や「運転歴」という意味での「運転経験」も driving history、「使った経験があるか」や「使用歴/利用歴」という意味での「使用/利用経験」も usage history と表現するなど、これらの「経験」には experience ではなく history を使うのが最適です。

以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで「経験(する)」と「体験(する)」を英語でどう区別して表現すればいいか分かりやすくなったかもしれません。

「運転体験 (=運転しやすさなど)」は日本語でも「ドライビングエクスペリエンス」、「顧客/ユーザー体験」も「カスタマー/ユーザーエクスペリエンス」とカタカナ英語が使われることが多いですが、そのようにかっこつけずにもっと短くて言いやすい日本語を使いましょう...

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