オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第62回は「外用薬」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
◆更新履歴は「お知らせ」に載せています。
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↑「外用薬」とされる点鼻薬を鼻の穴に注入する女性。英語で「外用薬」は本当に external medicine (外側用の薬)?
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「外用薬」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. balm
2. external (use) medication/medicine/remedy
3. medicine for external application/use
4. ointment
5. salve
6. unction
7. unguent
アルク - 看護に役立つ!実践メディカル英語
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
eigonary(辞書)
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
Linguee(辞書)
Quizlet
Reverso Context(辞書)
産業翻訳だよ! 全員集合(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、いろいろな訳語が見つかりました。この中で圧倒的に多かったのは「外側用の薬」を意味する external medicine や medicine for external use です。これらは本当に「外用薬」なのでしょうか?
以下では、外用薬に分類される薬の種類も含め、「外用薬」の英語について分かりやすく説明します。
「外用薬」とは
まず、主な国語辞書で外用薬は「皮膚の表面や粘膜」や「体の外部」に適用する薬と説明されており、湿布、軟膏、うがい薬、目薬、吸入剤などが例として挙げられています。このうち湿布や軟膏は確かに「体の外部」に使うものですが、吸入剤はどう考えても体内に吸い込むものです。また、うがい薬や目薬は確かに「粘膜」に適用する薬ですが、口や目の中に入れるものを英語で external (外側用の) と表現していいのでしょうか?
一方、日本語版ウィキペディアの『外用薬』のページでは内服薬と注射薬を除くすべての薬を「外用薬」と説明しており、点鼻薬や座薬も例に挙げています。これらも本当に「外側用の薬」なのでしょうか?
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↑つらい痔などに使う座薬も「外用薬」。どう考えても「外側用の薬」とは思えないのだが...
「外用薬」は英語で何と言う?
さて、日本で「外用薬」や「外用剤」と呼ばれるこれらの薬は、英語では topical medication など topical という形容詞を使って表されます。これは「局所 (=体の一部) に用いる」という意味で、英語版ウィキペディアの『Topical medication』のページでは日本で外用薬に分類される塗り薬、吸入剤、目薬などが例に挙げられています(座薬の記載もありますが、座薬と吸入剤は局所用薬に含めていないウェブページもあります)。
逆に全身に効くことを意味する単語は systemic で、英語版ウィキペディアの『Systemic administration』のページでは内服薬、注射薬、点滴などが例に挙げられています。なお、ニコチンパッチ(ニコチンを皮膚から補充して禁煙による禁断症状を和らげる貼り薬)のように体の一部に貼る薬でも全身に作用するものがあり、これも topical (局所用) ではなく systemic (全身用) と考える場合があるようです。
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↑「このパッチを右腕に貼りますが、全身に効きますのでご安心を」「右腕だけ禁煙できるとは思ってないわよ」
つまり、日本では薬のタイプを「内服薬 (飲み薬)」「注射薬」「外用薬 (内服薬と注射薬以外の薬)」の3つに分類しているのに対し、英語では systemic (全身用 ※内服薬や注射薬) と topical (局所用 ※塗り薬、湿布、目薬など) の2つに分類しているため、日本の「外用薬」は英語では external medicine (外側用の薬) などの直訳ではなく topical を使って topical medication (局所用の薬) のように表現するのが適切です。
なお、medication は主にアメリカの医薬業界で「薬」に使われる単語ですが、一般的な言葉の medicine も使えます(違いは #173 『医薬品』や『薬(物)』の英語は medicine, medication, drug などのどれ? を参照)。その他、topical agent (局所用剤) や topical treatment (局所的治療) という表現もあります。
「外用薬」の英語にこの topical medication や topical agent を載せている辞書は1つだけありましたが(『Weblio』)、ページ冒頭の「主な英訳」の箇所ではなくページ途中に埋もれて載っている状態でした。また、今回見つかったその他の主な訳語の balm、ointment、salve、unction、unguent は、どれも軟膏など塗り薬だけを意味するため目薬や吸入剤なども含む「外用薬」と同じ意味ではありません。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回説明した「外用薬」の適切な英語表現が多くのオンライン和英辞書に載ることを期待したいと思います。
薬局で渡される吸入剤や点鼻薬の袋には「外用薬」と書いてあると思いますが、店頭で「これは局所用薬と呼ぶべきです」などと主張すると薬剤師さんに迷惑ですのでやめておきましょう...