#85 『同乗者』の英語は本当に fellow passenger?

オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第85回は「同乗者」の英語についてです。

◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。

Odua Images / Shutterstock.com

↑「ねえ、あたしって同乗者よね?」「ええ、同乗者のあなたをお守りするのが運転手の務めです」


まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「同乗者」はどう英語に訳されているのでしょうか?

見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。

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「同乗者」
インターネット上の英語訳
1. fellow passenger
2. fellow traveler
3. passenger
訳語を載せた辞書・サイト
bab.la(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
HiNative
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
※主なオンライン和英辞書とGoogle検索結果(キーワード:「同乗者 英語」)の1ページ目に表示されたサイトを中心に調べています(◎本日以降に該当ページの内容が更新されている可能性があります)。検索語単体の英語訳の正誤を確認するのが目的のため、検索語を含むフレーズや例文などは調べていません。

ご覧のとおり、3つの訳語が見つかりました。この中で圧倒的に多かったのは fellow passenger です。ということは「同乗者」にはとりあえずこの表現を使えばいいということでしょうか?

以下では、どの辞書・サイトも載せていなかった fellowpassenger の意味も含め、「同乗者」の英語について分かりやすく説明します。

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「同乗者」とは

まず、主な国語辞書で「同乗」は「同じ乗り物に一緒に乗ること」や「乗り合わせること」と説明されています。「乗り合わせる」とは「偶然同じ乗り物に一緒に乗る」という意味のため、偶然とは限らない最初の「同じ乗り物に一緒に乗ること」と説明が矛盾する気がしますが、「同乗者」の場合は何を意味するのでしょうか?

国語辞書にその説明は見当たらないため、他で手掛かりを探すと例えば自動車保険のウェブサイトでは自動車に乗っている人全員が「搭乗者」で、その搭乗者は「運転手」と「同乗者」に分かれると説明されています。つまり、乗客や何らかの理由で「乗客」とは呼べない運転手以外の搭乗者はすべて「同乗者」なのでしょう。

観光バスや飛行機の場合は運転手や操縦士の他にバスガイドや客室乗務員などもいますが、同じ乗り物に一緒に乗っていてもこの人たちを「同乗者」とは普通呼ばないことから、「同乗者」とは「同じ乗り物に乗っている乗務員(運転手や操縦士含む)以外の人」という意味なのだと思います(「乗務員」と「乗員」は意味が違うと説明しているウェブページもありますが、主な国語辞書では同じとされています)。

anon_tae / Shutterstock.com

↑「なあ、俺も同乗者か?」「何か違うわね...」

Fellow Passenger と Fellow Traveler

さて、次は誰から見て誰が「同乗者」なのかですが、少なくとも自動車の場合は乗客同士だけでなく運転手から見ても乗客は「同乗者」です。実際、自動車免許の試験問題に「運転手は同乗者の安全を確保することも大切」と書いてあったり、警察の交通安全情報にも「ドライバーは同乗者の命を預かる責任が」と書いてあります。

では、今回圧倒的に多く見つかった fellow passenger をこの場合の「同乗者」に使っていいのでしょうか? fellow は「仲間の」や「同じ境遇の」という意味で、passenger は英和辞書の和訳を借りれば「乗客」を意味します。つまり、fellow passenger とは「乗客である自分から見て同じく乗客の立場の人」という意味のため、運転手から見た「同乗者」にこの表現を使うと運転手も passenger になってしまいます。

なお、fellow traveler (イギリスでは traveller) を「同乗者」の英語として載せている辞書が1つだけありましたが、これは「旅の連れ」という意味のため徒歩で移動している場合にも当てはまる表現です。

Galina Kovalenko / Shutterstock.com

↑「君は fellow traveler だけど乗り物に乗ってないから同乗者じゃないよな?」「ワンッ」

「同乗者」は英語で何と言う?

passenger は英和辞書で「乗客」と訳されていると書きましたが(他にも「搭乗客」「旅客」「船客」などの訳があります)、実際はこの単語に「客」という意味はありません。passenger はあくまで「乗り物に移動目的で乗っている乗務員(運転手や操縦士含む)以外の人」という意味のため、例えばご主人が運転している車に乗っている奥様は特別な場合を除いては「客」と呼べませんが、英語では passenger です。

この場合、車内に他にも移動目的で乗っている人がいればご主人と奥様のどちらから見てもその人は「同乗者」ですが、英語ではご主人から見た場合は passenger で奥様から見た場合は fellow passenger です。

また、乗客の自分から見て同じく乗客の立場の人について説明する場合は、必ずしも fellow を付ける必要はありません。例えば、飛行機に他の乗客と一緒に乗っているときにその中の1人が乗務員に何かを要求した場合、自分も passenger ですがその乗客のことを "A passenger requested...""One of the passengers requested..." のように fellow を使わずに表現できます。

今回調べた辞書・サイトで「同乗者」の英語に fellow passenger と passenger の両方を載せ、その意味の違いを説明しているものはありませんでした。

以上、お役に立てる内容だったでしょうか?「同乗者」という日本語の意味と運転手から見た場合の「同乗者」の英語表現が多くのオンライン和英辞書に載ることを期待したいと思います。

友達などに「同乗者って英語で何て言うの?」と聞かれたら、まずは「誰から見た同乗者なの?」と聞き返すようにしましょう...

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