#56 『したいと思う (=意向?)』は英語で何と言う?

オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第56回は「したいと思う」の英語についてです。

◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。

G-Stock Studio / Shutterstock.com

↑「実際に運転してみてこの車を買いたいと思いましたか?」「ええ、すごく買いたいですね。高すぎて買えないですけど」


まず、今回取り上げる「したいと思う」という日本語は、私たち消費者の意見や行動などを分析する「市場調査」で頻繁に使われるフレーズです。以下で説明する内容は英語よりも日本語の問題と言えますが、この日本語のフレーズはオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか?

見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。

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「したいと思う」
インターネット上の主な英語訳
1. be inclined to
2. care to
3. (think I) want to
4. would like to
訳語を載せた辞書・サイト
英語 with Luke
英辞郎 on the WEB(辞書)

Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
※主なオンライン和英辞書とGoogle検索結果(キーワード:「したいと思う 英語」)の1ページ目に表示されたサイトを中心に調べています(◎本日以降に該当ページの内容が更新されている可能性があります)。検索語単体の英語訳の正誤を確認するのが目的のため、検索語を含むフレーズや例文などは調べていません。

ご覧のとおり、主に4つの訳語が見つかりました。今回説明する「したいと思う」に適切な英語表現はこの中にありませんが、別にこれらの辞書・サイトが間違っているわけではありません。

以下では、マーケティング/市場調査業界のほとんどの人が恐らく気づいていない重要な点も含め、この「したいと思う」というフレーズの英語について分かりやすく説明します。

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魅力度と購入意向

まず、市場調査に参加し、パソコンの画面上で何かの製品についてのアンケートに答えている状況を思い浮かべてください。そして新製品のアイデアについての説明に続けて次の質問が表示されたとします。

Q5. あなたはこの製品をどれくらい魅力的だと思いますか?

1. とても魅力的
2. やや魅力的
3. どちらともいえない
4. あまり魅力的ではない
5. 全く魅力的ではない

Q6. では、あなたはどれくらいこの製品を買いたいと思いますか?

1. とても買いたい
2. やや買いたい
3. どちらともいえない
4. あまり買いたくない
5. 全く買いたくない

この2つの質問はアンケートの途中に登場するため、この例では5番目と6番目の質問にしています。両方とも登場する場合もあれば、2つめの「買いたいと思いますか?」の質問だけ登場する場合もあります。

この2つの質問は市場調査で製品やサービスの「魅力度」(Q5) と「購入意向」(Q6) を測るための質問とされていますが、Q6の日本語は本当に購入の「意向」を尋ねているのでしょうか?

Rawpixel / Rawpixel.com

↑「いいから早くあなたの意向を聞かせて」「もう少し考えさせてくれないか? (ええと...「意向」って何だったっけ?)」

「意向 (Intention/Intent)」とは

先ほどのQ6が尋ねるべき「購入意向」は英語で purchase intention/intent(略してPI)と呼ばれており、英語でも日本語でも「意向 (intention/intent)」は「どうするつもりかという考え」を意味します。つまり、Q6は何割くらいの人がその製品を買いそうかを判断するための重要な質問なのですが、「買いますか?」や「買おうと思いますか?」ではなく「買いたいと思いますか?」と尋ねるのは適切なのでしょうか?

例えば、最新の高機能フィットネス機器について「買いたいと思いますか?」と尋ねたら、「お金がない」「物が増えて家族に怒られる」などの理由で実際には買わないと思う人でもその機能に魅了されて「1. とても買いたい」を選んだり、「それは値段による」と考えて「3. どちらともいえない」を選ぶかもしれません。

Bruce Mars / StockSnap.io

↑「買おうと思うかじゃなくて、買いたいかを答えればいいんだな?」

一方、金額を示した上で「あなたならこの製品を買いますか?/買おうと思いますか?」のように尋ねたらその人たちは「4. たぶん買わない」や「5. 絶対に買わない」という選択肢を選ぶでしょう。つまり、尋ね方によって全く逆の回答が選ばれる可能性があるのです。

そのため、本当に購入意向を知りたい場合は「この製品が○○円だとしたら買いますか?」のように尋ねるのがいいのですが、日本の市場調査では意向を尋ねるはずの設問で「~したいと思いますか?」と表現するのが普通です。広告用語辞典やビジネス用語辞典ですら「購入意向(率)」の説明において「購入したい気持ち」や「買いたい」と表現していることから、業界全体でこの「意向」という日本語を誤解している可能性があります。

魅力的?

さて、ここまではQ6が「購入意向」を尋ねる質問という前提で説明してきましたが(それが市場調査では普通だからです)、もし「買おうと思うか (=購入意向)」ではなく本当に「買いたいと思うか」を知りたい場合は何も問題ないのでしょうか? ここで注目すべきがQ5の「魅力度」を尋ねる質問です。

「魅力」に該当する英単語はいくつかありますが、製品の場合は買ってくれないと意味がないため単に「うっとり」させたり「素敵」と思わせるのではなく「欲しい」と思わせることが重要です。つまり、Q5の「魅力」とは「欲しいと思わせる力」のことであり、この意味での魅力を英語では appeal と表現するのが普通です。

garetsworkshop / Shutterstock.com

↑「すごく魅力的なビールだなぁ...」「おいしそうだから飲みたいってことでしょ?」

では、Q5の「この製品をどれくらい魅力的だと思いますか?」という質問を「この製品に買いたいと思わせる力がどれくらいあると思いますか?」と言い換えてみるとどうでしょうか? 先ほどのQ6の質問と並べてみるとあることに気づきます。

Q5. あなたはこの製品に買いたいと思わせる力がどれくらいあると思いますか?
Q6. あなたはどれくらいこの製品を買いたいと思いますか?

いかがでしょうか? Q5とQ6は同じことを別の表現で尋ねているように思えます。もしそうであればどちらか1つだけを尋ねればいいのですが、「買いたいと思いますか?」と尋ねると先ほどのように「それは値段による」と考える人が出てくる可能性があるため、Q5の魅力度を尋ねるほうがいいでしょう。なお、今のQ5とQ6の質問を英語に訳すと次のようになります。

Q5. How appealing is this product?
Q6. How much do you want to buy this product?

「意向」を尋ねる正しい表現

では、Q6の質問で正しい意味での購入意向 (=買うつもりか/買おうと思うか) を尋ねるにはどう表現すればいいのでしょうか? まずは金額を述べて尋ねる表現から見ていきます。

1a. Would you buy this product if it were ○○ dollars?
(この製品が○○ドルだとしたら買いますか?)
2a. How likely would you be to buy this product if it were ○○ pounds?
(この製品が○○ポンドだとしたら買う可能性はどれくらいですか?)

厳密には2aは「意向」ではなく「可能性 (likelihood)」を尋ねていますが、"Definitely would buy" (絶対に買う) や "Probably would buy" (たぶん買う) のような選択肢にすれば意向を答えていることになります。一方、"Very likely" (とてもその可能性あり) や "Somewhat likely" (ややその可能性あり) という選択肢にすると可能性を答えていることになりますが、どちらにしても買いそうな人の割合を判断できるでしょう。

Antonio Guillem / Shutterstock.com

↑「とても買いたい」じゃなくて「絶対に買う」!

次に、質問の前にすでに金額を示している場合は金額を述べずに次のように尋ねればいいだけです。

1b. Would you buy this product?
(あなたならこの製品を買いますか?)
2b. How likely are you to buy this product? / How likely would you be to buy this product?
(この製品を買う可能性はどれくらいですか?)

2bはその製品が販売中・販売予定であれば are you to、「もし開発・販売されたら」のようなアイデア段階の場合は仮定法の would you be to を使うのが適切です。また、販売中・販売予定の場合は "Do you think you will buy this product?" (あなたはこの製品を買うと思いますか?) のように尋ねることもできます。

「したいと思う」や Want To は「意向」を意味する場合もある

ここまで「したいと思う」と「意向 (=するつもり/しようと思う)」は意味が違うと説明してきましたが、日本語でも英語でも例えば「まずは○○について説明したいと思います」のようにこれからするつもりのことに「したいと思う (want to)」という表現を使うことがあります。つまり、「したいと思う」は「意向」を意味する場合もあるということです。

ただ、市場調査のように正確さが非常に重要な状況においては、この「したいと思う」という曖昧な表現は使わないほうがいいでしょう。

以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回は特定の業界向けの内容になりましたが、日本語の意味を正しく理解していないとどのような問題が起こり得るかお分かりいただけたと思います。

もし市場調査に参加してこの「したいと思いますか?」というフレーズが出てきたら、「これはしようと思うかという『意向』を答えればいいのですか?」とその場でスタッフに質問してみるといいかもしれません(パソコンやスマホ上の無人アンケートでは質問できませんが...)。

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