オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第161回は「共感」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
Chanikarn Thongsupa / Rawpixel.com
↑「つらいよね...共感するよ」「それ『同情』と間違える人いるよね?」
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「共感する」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. empathize (with)
2. identify (with)
3. relate (to)
4. resonate (with)
5. sympathize (with)
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
英辞郎 on the WEB(辞書)
English Lab:もっと英語を話すための備忘録
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
ネイティブキャンプ英会話ブログ
ニック式 英会話
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
ご覧のとおり、主に5つの訳語が見つかりました。この中で多く見られたのはほぼ同じスペルの empathize と sympathize です。これらは本当にどちらも「共感する」なのでしょうか? また、その他の訳語にはどのようなニュアンスの違いがあるのでしょうか?
以下では、この empathize と sympathize の違いや「共感を呼ぶ/与える」の表現も含め、「共感」の英語について分かりやすく説明します。
Empathize と Sympathize の違い
まず、スペルがほぼ同じでネイティブスピーカーでも混同する人がいるこの empathize と sympathize の違いを簡単に説明すると次のようになります。
単に意見や主張に賛成できる場合にも使える日本語の「共感」と違い、嬉しい気持ちや悲しい気持ちなど他人の気持ちを理解して(自分が未経験の場合は自分のことのように想像して)同じ気持ちになること。
他人の苦悩や不幸をかわいそうと思うこと(ただしその人と同じ気持ちになれているとは限らない)。つまり「共感」ではなく「同情」すること。「賛同する」の硬い表現として使われることもある。
このように意味が重なる部分もありますが、少なくとも本人に伝える場合は相手の気持ちが分かるのであれば "I know how you feel" (お気持ち分かります) や "I feel the same (way)" (同じ気持ちです)、同情であれば "I feel for you" (大変ですね) などの表現を使うほうが普通です。もちろん "Me too/neither" (私もです) や "I agree" (賛成です) が使える場合はそれだけでも同じ意味になります。
empathize は英和辞書で主に「共感する」と訳されていますが、「共感」という日本語は冒頭の写真のような深刻な場面であのように empathize の意味で使う言葉ではない気がします。実際、「共感」という日本語を使う場面の多くには以降で説明する各表現のどれかを使うほうが合っているのではないでしょうか?
McKinsey / Rawpixel.com
↑「どうしてこんなにも気持ちが分からないの?」というこの貼り紙の場合も「共感」という言葉を使って「どうしてこんなにも共感できないの?」と表現すると何となく意味が軽くなって違うような気がする...
Identify
さて、2つの辞書だけが載せていたこの identify は、「同じと見極める」や「同一視する」などを意味します(「身分証明書」を意味する ID card の ID は名詞の identification/identity を略したものです)。あくまで何かが「同じ」ことを意味するため、次のように感情ではなく状況などが同じ場合にも使えます。
同じく次の例も状況や立場が同じ意味になり得ますが、それでもそう「感じている」のであれば「共感」と言えると思います。
この場合、主人公と「同じ気持ち」になれたことを明確にしたければ empathize を使って "I empathized with the main character of the story" と表現するほうがいいでしょう。なお、empathize と同じくこの identify も本人に対して "I identify with you" とは普通言わないので注意が必要です。
Teddy / Rawpixel.com
↑「この主人公はボクと同じじゃないか...」(つまり共感できるってことね?)
Relate
次は、3つの辞書・サイトだけが載せていた relate (関係づける) です(名詞は relation)。
相手の気持ちや状況に自分を関係づけられるという意味でアメリカでよく使われる "I can relate" という表現は、シンプルな日本語にすると「分かるよ」になると思います(この英語と日本語のどちらも同じ経験をしていなくても想像して使える言葉だと思います)。イギリスでは次のカッコ内のように「それ」に該当する "to it" や "to that" を付けないと変に感じる人も多いようですが、意味が誤解されることはないでしょう。
このように共感を表せる relate ですが、l と r の位置が近くて発音が難しめなところが残念と言えます(特に上の例の totally のように relate の前にも l の音がある場合)。
Rawpixel / Rawpixel.com
↑「I can totally relate, darling」「ずいぶん言いづらそうだね...」
Resonate
最後は、「鳴り響く」や「共鳴を生む」を意味する resonate です(名詞は resonance ※resonation は聞いたことがないネイティブスピーカーも多く、発声についての専門的な話以外ではまず使われません)。この単語を訳語に載せている辞書・サイトは1つだけでしたが、これも「共感する」の英語としてよく使われます。
この場合の主語は自分ではなく共感を感じる発言やメッセージ側になるため、日本語の「共感を呼ぶ」や「共感を与える」と同じだと言えます。これらの日本語は次の1文目のように大勢の人が共感した場合に使うのが普通だと思いますが、英語の resonate は2文目のように1対1の状況で心に響いた場合にも使えます。
What he said really resonated with me. (彼の言ったことは本当に心に響いた。)
なお、自分を主語にして "I resonated with the message" のように表現するネイティブスピーカーもいますが、この使い方は誤用と指摘する人や変に感じる人が多いので真似しないのが無難です。
最初に説明した empathize は気持ちを理解できること、この resonate は心に響くことを意味するため、単に「同感」や「賛成」のようなレベルでの共感にはこの2語は使わないほうがいいでしょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで「共感する」の英語表現の違いが分かりやすくなったかもしれません。
今回の内容に「共感」された方がいると嬉しいですが、私の気持ちや経験を書いたページではないので "I empathize with you" や "I can relate" とは表現しないようにしましょう...