#73 『過半数』の英語は本当に majority?

オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第73回は「過半数」の英語についてです。

◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。

LVM / Shutterstock.com

↑「アンケートの結果、過半数の人がNOと回答しました」← この「過半数」も majority?


まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「過半数」はどう英語に訳されているのでしょうか?

見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。

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「過半数」
インターネット上の主な英語訳
1. (a/the) majority
2. absolute majority
3. bulk
4. plurality
訳語を載せた辞書・サイト
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
みんなのペラペラ英会話
例文.info
Reverso Context(辞書)
RNN時事英語辞典(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
役立つ英語ブログby大阪の日本人英会話講師KOGACHI
※主なオンライン和英辞書とGoogle検索結果(キーワード:「過半数 英語」)の1ページ目に表示されたサイトを中心に調べています(◎本日以降に該当ページの内容が更新されている可能性があります)。検索語単体の英語訳の正誤を確認するのが目的のため、検索語を含むフレーズや例文などは調べていません。

ご覧のとおり、主に4つの訳語が見つかりました。この中で最も多かったのは (a/the) majority です。「過半数」にはとりあえずこの表現を使えばいいということでしょうか?

以下では、どの辞書・サイトも載せていなかった冒頭の円グラフのような例も含め、「過半数」の英語について分かりやすく説明します。

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Majority とは

まず、例えば投票で「過半数を得る必要がある」と言えば得票率が(小数点以下を考えなければ)51~100%のどこかになればいいという意味で、この場合の「過半数」は確かに majority のため「その候補者は過半数を得る必要がある」と言いたければ "The candidate needs to win a majority" と表現します。

一方、例えば "The majority (of people) voted for the candidate" と言った場合の majority は何を意味するのでしょうか? bare majority (ぎりぎりの過半数)、overwhelming majority (圧倒的多数)、vast majority (大多数) などの表現を使っていないことから、この場合は50~100%の中間の75%を中心とする漠然とした「大半/大部分」の人がその候補者に投票したと解釈するのが普通です。

この「大半/大部分」を意味する最も一般的な英単語は most で、類語辞書で代名詞の most の類語に (the) majority が載っていることからも、「大半/大部分」という意味での majority は単に most の少し硬い/かっこつけた表現だと言えるでしょう。なお、majority には「多数派」や「得票差」の意味もあります。

Rawpixel / Rawpixel.com

↑「このように majority の人たちが支持しているのである!」「先生、それって most people ってことですか?」

A Majority と The Majority の違い

さて、例えば "A dog suddenly appeared" と言えば「見知らぬ犬が突然現れた」という意味ですが、"The dog suddenly appeared" と言うと「その犬が突然現れた」という意味になり、その犬をすでに知っていたことになります。同じく大半の人たちを "a majority" と表現した後で「その大半の人たち」と言いたい場合は "the majority" になりますが、この athe の違いであれば分かりやすいと思います。

その他の違いについては、52%、76%、93%などいくつもの過半数の中の1つ(または同じ93%でもその割合を構成する人間の組み合わせは多数あるためその中の1つ)を表すのが a majority、少数に対する「多数」という1つの塊が the majority と考えるのが正しいように思えますが、ネイティブスピーカーでも独自の解釈をしたり、どちらも全く同じと考える人や使う動詞によって自然に聞こえるほうを使うと言う人もいます。

つまり、このような明確なルールがないものについては、できるだけ多くの使用例に触れてどのような場合にどちらの表現を使うのが普通なのかを感覚的に学ぶしかないでしょう。ただ、先ほどの「大半/大部分」の意味では the を使うほうが普通だと思います。

「過半数の人」?

さて、ここからが本題ですが、冒頭の円グラフの「過半数の人がNOと回答」の「過半数」は英語で何と表現するのでしょうか?「過半数の人」という日本語が正しいかは分かりませんが、実際に「~の過半数(の人)が○○と回答」のように表現している記事は結構あり、そのようなページを適当に20件選んで調べたところ、そのすべてで「過半数」は5割台(特に51~54%)になっていました。これも a/the majority でしょうか?

このような場合の「過半数」が5割台の特に前半になる理由は、6割に近づくと「6割弱/近く」という次の段階を表す日本語があり、その後は「6割」「6割強/以上」「3分の2近く」のように表現するのが普通だからです(もちろん「○割程度」や「約○割」もあります)。もっと分かりやすく言うと、例えば4分の3の人が反対した場合は「過半数が反対」ではなく「4分の3が反対」と表現するのが普通です。

Rawpixel / Rawpixel.com

↑「このように過半数の人が反対しています」「っていうか4分の3もいるじゃないの!!」

最初に説明した「過半数を得る必要がある」の場合は51~100%のどこでもいいことを意味する majority を使うのが適切ですが、冒頭の円グラフのように何割くらいの人がそう回答したのかということが重要な場合は、「6割近く」や「4分の3」のようにできるだけ正確に割合を表すのが普通です。では、「6割近く」の前の51~56%あたりを表す日本語は「過半数」以外にないのでしょうか?

「半数以上の人」?

何だか話が難しくなってきましたが、結論を言うと冒頭の円グラフの55%のように「半数は超えているけど『6割近く』よりは低い」という割合は more than half や over half と表現するのが適切です。なぜなら、英語でもそれ以上の割合になると nearly 60% (6割近く)、60% (6割)、more than 60%/over 60% (6割超え)、nearly two-thirds (3分の2近く) のように表現するのが普通だからです。

つまり、あの55%のアンケート結果は "More than half (of (the) respondents) answered 'No'" のように表現するのが適切ということですが、この more than half の部分を the majority と表現してしまうと先ほどの「大半/大部分」というもっと高い割合をイメージさせてしまうでしょう。逆に5割台を「ぎりぎり過半数」と言いたければ、a/the bare majority や just more than half などの表現が使えます。

なお、5割台(特に前半)を「過半数(の人)」ではなく「半数以上(の人)」に変えて「半数以上がNOと回答」のように表現するほうが自然な日本語に思えるものの、「半数以上」は「半数またはそれより多い」という意味のため「ちょうど半数 (50%) の可能性もあるということですか?」と聞きたくなってしまいます。

Stuart Jenner / Shutterstock.com

↑「どうやら半数以上が賛成のようね」「先生、それってちょうど半数の可能性もあるってことですか?」

つまり、51~56%あたりを表す日本語は「半数以上(の人)」よりも「半数を超える人」や「5割強(の人)」のほうが正しいと言えますが(「過半数の人」という日本語が正しければそれも可)、そう表現することで先ほどの more than halfover half と意味が一致します。英和辞書でこれらの英語は「半数以上」と日本語に訳されていることが多いと思いますが、「半数より多い」と訳すほうが正しいと言えるでしょう。

冒頭の円グラフの「過半数の人」という日本語が正しいかは分かりませんが(自然に読めたのであれば正しいと言っていいと思います)、今回調べた辞書・サイトで「過半数」の英語にこの more than half または over half を載せているものは3つだけありました(『goo』『Reverso Context』『Weblio』)。

Absolute Majority, Bulk, Plurality とその他の似た表現

さて、今回見つかった4つの主な訳語のうち、残された3つは何を意味するのでしょうか?

分かりやすい順に説明すると、「複数」という意味の plurality は投票では「相対多数」(3人以上が立候補して誰も過半数に達しなかった場合の一番多い数) を意味するため「過半数」ではないでしょう。また、イギリスではこの「相対多数」を直訳した relative majority という表現を使うのが普通です。plurality は面倒なことにアメリカで「当選者と次点者の得票差」を意味する場合もあるようです。

absolute majority は「絶対多数」という表現ですが、この英語は投票総数の過半数ではなく有権者総数の過半数を意味する場合もあるようです。また、これに似た simple majority (単純多数) という表現もあるのですが、これも投票総数の過半数を意味する場合と先ほどの「相対多数」を意味する場合があるらしく、どちらの意味なのかは文脈などから判断するしかないでしょう。

残された bulk"the bulk of X" と表現すると「Xの大部分」になるため most と同じと言えます。mostbulk も「過半数」ではなく「大半/大部分」のため、「過半数」には a/the majority (51~100%のどこか) と more than half/over half (51~56%あたり) のどちらかを使うのがいいでしょう。

以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回説明した「過半数」という日本語の使われ方や英語表現の違いが多くのオンライン和英辞書に載ることを期待したいと思います。

社会少数派のことを分かりやすくて言いやすい「マイノリティー」と表現するのは分かりますが、単に多数派を「マジョリティー」と表現する人をたまに見かけます。どう考えても「多数派」のほうが言いやすく、日本人相手にわざわざ英語を使う必要もないと思いますので、そのような方は私たちマジョ...ではなく多数派のようにもっと日本語を使うことを心がけてはいかがでしょうか?

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