オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第96回は「メーカー」や「製造会社」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑医薬品メーカーで薬が作られる様子。さて「メーカー」は英語で何と言う?
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「メーカー」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. make
2. maker
3. manufacturer
4. manufacturing business/company
5. producer
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
英辞郎 on the WEB(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
青春English部
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
※アメリカとイギリス以外の国の英語について説明していたサイトは一覧に含めていません。
ご覧のとおり、主に5つの訳語が見つかりました。日本語の「メーカー」と同じ maker や「プロデューサー」の producer も含まれています。どの表現を使うのが一番いいのでしょうか?
以下では、ほぼすべての辞書・サイトが載せていなかった表現も含め、「メーカー」や「製造会社」の英語について分かりやすく説明します。
日本では「メーカー」が普通
まず、日本では一般消費者でも業界関係者でも、何かを作っている会社を「自動車メーカー」「おもちゃメーカー」「衣料品メーカー」「化粧品メーカー」「医薬品メーカー」「食品/飲料メーカー」のように「メーカー」と表現するのが普通です(医薬品メーカーは「製薬会社」とも呼びますが)。例えば、「自動車製造会社」では表現が長くて印象も硬いため、「製造会社」の部分を「メーカー」に置き換えているのでしょう。
「メーカー」は英語の maker から来ていますが、動詞の make は製造(=原料を加工して製品にすること)ではなく単に「作る」という意味のため、maker は「製造業者 (※主な国語辞書の定義では「業者」は会社ではなく人)」や「製造会社」よりもっと広い「作っている人」や「作っている会社」という意味になります。
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↑「こちらのメーカーをご存知ですか?」「ワインメーカーは英語でも wine maker なのかしらねぇ?」
「メーカー」は英語で何と言う?
さて、今回見つかった5つの訳語のうち、maker 以外の4つは何を意味するのでしょうか?
1番目の make は「作る」という動詞ではなく、"What make is it?" (どこ社製ですか?) のようにメーカー(またはブランド)の意味で使われる名詞です。日本語では「どこのメークですか?」などと聞くと化粧品の話と間違われる可能性が高いため、make も「メーカー」と表現するしかないのでしょう。
3番目の manufacturer と4番目の manufacturing business/company はどちらも工場で機械を使って大規模に製造する会社をイメージさせるのが普通ですが、短くて言いやすい manufacturer のほうが多く使われます。ただ、そのような会社でも先ほどの maker が使われることがあります。
例えば、自動車メーカーはアメリカで automaker と表現されることが多く、イギリスでも一般消費者であればわざわざ硬い響きのある manufacturer を使わず car maker と表現する人のほうが多いと思います(「自動車」の英語は #7 『自動車』の英語は本当に car や automobile? で説明しています)。
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↑某有名自動車メーカーの工場。manufacturing (製造) とはこのように機械でガチャンガチャンと作るイメージだ。
また、おもちゃを工場で製造するメーカーは toy manufacturer ですが、機械的な製造というイメージを与えたくないためか toymaker と表現されることもあります。ただ、これはメーカーではなく人(おもちゃ職人)にも使われる表現で、似た例として winemaker (ワイン職人) や shoemaker (靴職人) があります。
5番目の producer は映画や音楽などの「プロデューサー」を思い浮かべますが、produce という動詞は基本的に「生み出す/作り出す」という意味のため、農産物の生産者なども producer です。そして producer の中で工場で機械的に製造しているのが先ほどの manufacturer で、例えばワインメーカーを wine producer ではなく wine manufacturer と表現すると工場で機械的に製造している印象を与えるでしょう。
本当は作っていない「メーカー」もある?
さて、最初に書いたとおり何かを作っている会社を日本では「メーカー」と呼ぶのが普通ですが、英語ではこのように maker、manufacturer、producer と表現が分かれるので面倒です。ただ、幸いなことに裏技(というより最適な方法)があります。それは、「メーカー」を単に company (会社) と表現することです。
もし「製造会社」という響きが硬いから「メーカー」と呼んでいるのであれば、それを英語で manufacturer と表現するのは「製造会社」に戻していることになります。また、「メーカー」と呼ばれていても実際は製造業務のすべてまたは大部分を外部の請負会社に委託している会社もあると思います。
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↑いろいろな「メーカー」のシューズが並ぶ靴売り場。自社製造していないのに「メーカー」と呼ばれている会社もある?
インターネットで試しに "list of cosmetics companies" (化粧品会社の一覧) というフレーズを入力して検索すると、"Top 10 Largest Cosmetics Companies in the World" のようなタイトルのページが上位にいくつか表示されると思います(「化粧品」の makeup、cosmetics、toiletries の違いは #66 『化粧品』『メイクアップ化粧品』『基礎化粧品』は英語で何と言う? で説明しています)。
同じ方法で toy (おもちゃ)、clothing (衣料品)、pharmaceutical (医薬品)、food (食品) なども検索すると、やはり companies を含むタイトルが多く表示されます。これが何を意味するのかというと、自社製造しているのか不明な場合や、工場での機械的な製造をイメージさせる manufacturer という表現は避けたいけれど maker/producer と呼んでいいのか分からない場合は、company と表現すればいいということです。
なお、本当はブランド (銘柄) でありながら誤って「メーカー」と呼ばれることもありますので、その場合はもちろん maker/manufacturer/producer や company ではなく brand と表現しましょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回調べた辞書・サイトで「メーカー」の英語にこの便利な company を(manufacturing company というフレーズではなく)単独で載せているものは1つだけでした(『Reverso Context』)。
何かを製造している会社には「メーカー」と「製造会社」のどちらの言葉を使ってもいいと思いますが、「製造メーカー」という表現は明らかに意味が重複しているので使わないようにしましょう...