オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第173回は「医薬品」や「薬物」など「薬」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
Karolina / Kaboompics.com
↑これは medicine か medication か? それとも drug か pharmaceutical か??
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「医薬品」や「薬」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. med(s)
2. medical supplies
3. medicament(s)
4. medication
5. (medicinal) drug(s)
6. medicine(s)
7. pharmaceutical(s) / pharmaceutical product(s)
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
英語ぷらす
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Little Kids English
MYスキ英語
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、主に7つの訳語が見つかりました。med という文字で始まるものが圧倒的に多く、「ドラッグ」の元になっている drug も含まれています。これらの違いは一体何でしょうか?
以下では、可算名詞 (数えられる名詞) と不可算名詞 (数えられない名詞) のどちらとして使えるかという点も含め、「薬」の英語について分かりやすく説明します。
「医薬品」と「違法薬物」
まず、以降の説明で使う日本語の「医薬品」と「違法薬物」について念のため説明しておきたいと思います。
違法薬物: 違法の薬物。ドラッグ。「薬物」だけでも普通は同じことを意味する。
私たちが普段使う薬は「医薬品」または単に「薬」と呼ぶのが普通のため、以降でもこれらの言葉を使います。なお、「薬」という漢字は「農薬」や「火薬」にも使われますが、以降の内容は上の2つについてです。
「医薬品/薬」の英語の違いは?
では、今回見つかった「医薬品/薬」の主な英語の違いを分かりやすい順に説明したいと思います。
医薬品の他に「医学」や「医術」も意味する単語。薬の意味では可算名詞 (数えられる名詞) と不可算名詞 (数えられない名詞) のどちらとしても使える。医薬品全般に使えるものの、内服薬をイメージする人も多い。"Laughter is the best medicine" (笑いは最良の薬) のように比喩としても使われる。
例えばイギリスのNHS (国民保健サービス) の『Types of medicines』というページには、水薬、錠剤/カプセル、軟膏、座薬、目薬、注射剤などさまざまな種類の薬が載っています。ただ、普段の会話では medicine ではなく例えば「薬を飲んだ」であれば pills (錠剤やカプセル)、「薬を塗った」であれば ointment (軟膏) や lotion (ローション)、「何かいい薬」には単に something (何か) を使うほうが自然な状況もあります。
買った薬が1種類か数種類か分からない日本語の「薬を買った」と同じく medicine も単に「薬」の意味では "I bought some medicine" のように不可算名詞として使うのが普通で、特定の薬の場合は "a medicine for ~" (~用の薬) や数種類あることを伝えたい場合は "these medicines" (これらの薬) など可算名詞として使います(可算名詞として使うのが適切に思える状況でも不可算名詞として使われる場合があります)。
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↑「medicine には飲み薬のイメージがあるの?」「このような水薬を意味するのが普通と言う人までいるのよ」
「薬で治療する (medicate)」を名詞化した「薬物治療/投薬治療」の他に薬自体も意味するようになった単語。これも薬の意味では可算/不可算名詞のどちらとしても使える。medicine との違いは業界用語的なところ、外用薬にも違和感なく使えること、少なくともイギリスでは処方薬のイメージがあること。
この medication も可算/不可算名詞の使い分けが難しい他、国や人によってイメージが多少違います(イギリスでは今でも「アメリカ風の表現」や「薬物治療の意味で使うべき」と考える人がいるようです)。
状況や人によっては薬ではなく薬物治療の意味と誤解されたり、発音が悪いと meditation (瞑想) と間違われる可能性もあるため、医薬系の業界で働く人以外は内服薬であれば medicine を使うほうがいいでしょう。
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↑「あたしお薬が欲しかったんですけど...」「Yes, this is meditation...」
医薬品だけでなく違法薬物も意味するようになった単語(日本語の「ドラッグ」はこれが元)。常に可算名詞で便利な一方、医薬品の話だと分かる状況以外では形容詞などを付けないと日本語の「薬物」と同じく違法薬物を意味するのが普通。タバコや酒類など中毒を引き起こすその他のものも含めて使う人もいる。
例えば "I take drugs" (薬やってます) や "Are you on drugs?" (薬やってるの?) などの drug は普通は違法薬物(または合法薬物で不適切な使用のもの)を意味します。医薬品と違法薬物の意味を明確にする表現としては、それぞれ medicinal drug (医療用の薬物) と illegal drug (違法の薬物) があります。
このように違法薬物と誤解される可能性や発音が悪いとパソコンのマウスの「ドラッグ」などを意味する drag と誤解される可能性もあるため、医薬業界以外の人が医薬品にあえてこの単語を使う必要はないでしょう。
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↑「We need to use some drugs」「危ないからやめてください...」
医薬品の製造(や販売)に関することに使われる形容詞で、名詞として使う場合は正に「医薬品 (=製品となった医薬)」や製造された薬という意味での「製薬」と同じ(つまり pharmaceutical product/drug の略)。product/drug と同じく常に可算名詞。複数形で医薬品全体に使うのが普通。
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↑「I've already taken my pharmaceuticals」「普通に medicine でいいんだよ」
medicine(s)/medication(s) を略した口語表現。1つの薬でも複数形で表せるなど、便利そうで逆に面倒そうな単語。いずれにしても口語表現のため使える状況は限られる。
医薬品の意味で昔使われていた単語。今の時代に使うことは普通ない。
注射器、包帯、ガーゼなど「医療用品」のこと。医薬品ではない。
この最後の medical supplies を「医薬品/薬」の英語として載せている辞書が多く見られましたが、これは誤訳のため削除されるべきでしょう。また、remedy、therapy、treatment、cure なども載せている辞書がいくつかありましたが、これらは「療法」や「治療」など「医薬品/薬」より意味の広い単語です。
今回の内容から、医薬品としての「薬」が (medicinal) drug、medicine、medication、違法薬物としての「薬」が (illegal) drug、「医薬品/製薬」が pharmaceutical (product/drug) に該当すると言えますが、どの表現を使うべきかはその状況に応じて判断するのがいいでしょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 日本語の「薬」は種類によって読み方が「くすり」「ぐすり」「やく」と変わるため外国人にとって簡単とは言えませんが、可算名詞と不可算名詞の違いや内服薬と外用薬で「薬」の部分に使う単語が違う場合がある英語のほうが数倍難しいと言えます。
今回の内容を読んで頭が痛くなったり熱が出てだるくなってしまった方は、早速ドラッグストアに行ってよく効くドラッグ(...ではなく薬)を買ってきましょう。