オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第55回は「ニーズ」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
◆更新履歴は「お知らせ」に載せています。
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↑「ほら、もっといろいろ贅沢したいというニーズがあるんですよ」「それはニーズじゃなくてウォンツだな...」
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「ニーズ」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. demand(s)
2. need(s)
3. requirement
bab.la(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、カタカナの「ニーズ」の元になっている needs を含む3つの訳語が主に見つかりました。これらの違いは一体何でしょうか?
以下では、「ニーズに応える」や「ニーズを満たす」の表現も含め、「ニーズ」の英語について分かりやすく説明します。
Need, Demand, Requirement の違い
まず、need、demand、requirement の違いを簡単に説明すると次のようになります。
動詞では「必要としている」、名詞では「必要としているもの/必要としていること」や「必要性」を意味する単語。日本語の「ニーズ」は名詞の複数形の needs をカタカナにしたもの。
動詞では「要求する」、名詞では「要求」や「需要」を意味する単語(「需」という漢字も「求める」という意味)。必要としているだけでなく「求めている」ところが need と違う(詳しくは後で説明)。
何かをするため(例えばニーズを満たすため)に「必要となること」を意味する名詞(動詞は require)。つまりニーズ自体とは違う。パソコンなどの「システム要件」の「要件 (=必要条件)」にも使われる。
なお、必要としているもの1つは "a need" (ニーズ) や "each need" (各ニーズ) のように単数形で表しますが、これを日本語でも「ニード」と表現すると相手に不思議な顔をされてしまうでしょう。
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↑「そのニードを満たすにはどうすればいいのですか?」「ニード?」
「ニーズ」を Need(s) と表現するのが最適な場合
さて、消費者が何を必要としているかなど、単に「必要としているもの/必要としていること」を表すのであれば英語でも次のように need(s) を使うのが最適です。
((御社の)顧客ニーズを特定することが重要です。)
(弊社はあらゆるニーズにお応えする各種サービスを提供しています。)
1文目は your を入れる場合は customers' needs とするほうが意味的に正しいのですが、日本語の「顧客ニーズ」と同じく customer needs というフレーズはビジネス慣用句としてよく使われます。2文目の every need (あらゆるニーズ) は all を使う場合は複数形で all your needs (すべてのニーズ) となります。
なお、2文目の「応える」には respond to を使いたくなりますが、meet を使うのが普通です。また、「満たす」の場合は fulfil(l) (アメリカは fulfill でイギリスは fulfil が普通) や satisfy が一致する表現ですが、少なくとも「要望」や「願望」ではなく「ニーズ」の場合は meet が最も多く使われます。
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↑「どうすればお客様のニーズに会えますか?」「会う?」
(ボランティアのニーズが増えています。)
(デスクトップパソコンのニーズが大幅に減りました。)
この2つの文でも need を「ニーズ」と訳しましたが、同じ名詞の need でも例えば "I felt a need to do it" (そうする必要(性)を感じた) のように「ニーズ」や「必要物」とは意味が違う場合があります。また、increase (増える) と decrease (減る) は他に grow (伸びる)、rise (高まる)、decline (下がる) などがありますが、使用頻度が高くお互いが対にもなっている increase と decrease を使うのが便利と言えます。
「ニーズ」を Demand など別の言葉で表したほうがいい場合
最後に、例えば日本語の文章で「需要」という言葉を使うべきところが「ニーズ」と表現されてしまっている場合は、英語に訳すときは demand と表現するのが最適です。
demand は「要求」や「需要」を意味すると先ほど説明しましたが(どちらの意味かは文脈で判断)、「需要」は「要求」と違って強く求めているのではなく、「必要」に「欲しい」が加わった程度の言葉です。そのため、英語でもニーズの意味での need と需要の意味での demand は同じように使われることがありますが、やはり「需要」には demand を使うべきだと思います。
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↑「買いたいというニーズがこんなに多いんですよ」「それはニーズじゃなくてデマンドだな...」「どっちでもいいじゃない」
そして例えば「需要が高い」と言いたければ、次のように demand と high を使って表せます。
(これらの製品は需要が高いです。)
この1文目の "There is ~" の場合は high (高い) や great (大きい) など程度を表す形容詞が付くと a が付くのが普通ですが(ただし much (多い) や little (少ない) の場合は付けない)、これらの形容詞を付けずに単に「需要がある」と言う場合は a を付けずに "There is demand for ~" と表現します。一方、2文目の "be in demand" は成句のため high などを付けても a は付きません。
その他、「必要ではないけど欲しいもの」でありながら「ニーズ」と表現されてしまっている場合は、英語では want(s) と表現すべきです(ただし wish(es) や desire(s) を使うほうが自然な場合もあったり、なくても生きていけるものでも本人が「必要」と感じるものは need(s) と表現できます)。同じく「要望」と表現したほうが適切なのに「ニーズ」と表現されてしまっている場合は、英語では request(s) と表現すべきです。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで need と demand と requirement の違いや「ニーズに応える/ニーズを満たす」の英語表現が分かりやすくなったかもしれません。
今後は「ニーズ」というカタカナ英語を使う前に一歩立ち止まり、それが本当に「ニーズ」なのかを考えるニードがあるでしょう...