#44 『パイブレンダー』の英語は本当に pie blender?

オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第44回は「パイブレンダー」の英語についてです。

◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。

WikimediaImages / Pixabay.com

↑何となく怖い形をした「パイブレンダー」と呼ばれる調理器具。


まず、「パイブレンダー」とはパイ生地を作るときにバターを細かく切って小麦粉と水と混ぜ合わせるのに使う調理器具ですが、この器具はオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか?

見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。

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「パイブレンダー」
インターネット上の英語訳
pie blender
訳語を載せた辞書・サイト
お菓子の辞典(辞書)
※主なオンライン和英辞書とGoogle検索結果(キーワード:「パイブレンダー 英語」)の1ページ目に表示されたサイトを中心に調べています(◎本日以降に該当ページの内容が更新されている可能性があります)。検索語単体の英語訳の正誤を確認するのが目的のため、検索語を含むフレーズや例文などは調べていません。

ご覧のとおり、「パイブレンダー」の英語を載せた辞書・サイトは1つしか見当たりませんでした。そして訳語は日本語と同じ pie blender になっています。英語圏でもこのように呼ばれているのでしょうか?

以下では、「パイ生地」を意味する単語のアメリカとイギリスでの解釈の違いも含め、「パイブレンダー」の英語について分かりやすく説明します。

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パイをブレンドする?

まず、この調理器具を pie blender という名称で販売している会社は英語圏にもあり、そのように呼ぶ人は消費者の中にもいます(つまり、日本語の「パイブレンダー」は単にその英語をカタカナにしたものだと思います)。ただ、料理に詳しくない人がこの名前を聞くとせっかく焼き上げたサクサクのパイをグチャグチャに潰して混ぜる器具と勘違いしてしまう可能性があるため、できれば日本語でも別の表現を使うのがいいでしょう。

インターネットで検索するとこの器具は「パイ生地ブレンダー」として紹介/販売されている場合もありますが、この表現であればパイ自体ではなく(パイやキッシュを作るのに必要な)パイ生地を混ぜ合わせる器具の意味になるため適切と言えるでしょう。

RitaE / Pixabay.com

↑調理する過程でパイブレンダーが活躍したと思われるキッシュ。

「パイブレンダー」は英語で何と言う?

さて、パイ生地は英語で dough または pastry と呼ばれるため、パイブレンダーは次のように表現されるのが普通です(アルファベット順に記載)。

1. dough blender
2. pastry blender
3. pastry cutter

アメリカでは dough はパンやペストリー菓子に使う「パン生地・パイ生地」、可算名詞 (数えられる名詞) の pastry/pastries は dough を使って焼いたパイなどのペストリー菓子を意味するのに対し、イギリスでは dough は「パン生地」(または「パイ生地」も含む)、不可算名詞の pastry は「パイ生地」、そして可算名詞の pastry/pastries はそのパイ生地を使って焼いたペストリー菓子を意味するのが普通のようです。

ただ、アメリカでも料理に詳しい人であれば不可算名詞の pastry を「パイ生地」の意味で使うようなので、同じ国でも人によってこの器具の呼び名は異なると言えるでしょう。

Cutter は正しい?

3番目の pastry cutter"cutter" の解釈も人によって異なり、「小麦粉とバターと水を混ぜるときにこれでバターを刻むから自分はこれを pastry cutter と呼んでいる」(イギリス) と言う人や、「焼き上げたペストリー菓子をカットするための器具ではないのだから pastry cutter と呼ぶのは正しくない」(アメリカ) と言う人、そして「pastry cutter は練った生地をくり抜く『抜き型』のこと」(イギリス) と言う人もいます。

このように国や人によって解釈が異なるため、結局のところ上の3つの呼び名はどれを使っても相手によっては違和感を感じられる可能性があるということです。

thefoodphotographer / Shutterstock.com

↑パイブレンダーはこのようにして使われる(刻むのがバターだけなら "butter cutter" では??)

日本でのこの器具の名称を考える

さて、先ほどこの「パイブレンダー」という名称について「できれば日本語でも別の表現を使うのがいい」と言いましたが、どの表現を使うのが一番いいのでしょうか?

イギリスで3番目の pastry cutter は先ほどのように「抜き型」を意味するのが普通で、日本でも抜き型を「ペストリーカッター」として販売している場合があるためこの表現は使わないほうがいいでしょう。

congerdesign / Pixabay.com

↑食欲が減る形をしているが、イギリスでは「抜き型」に "pastry cutter" という表現が使われる(ただし今ではアメリカ英語の "cookie cutter" のほうが普通)。

同じく日本で販売されているパイブレンダーの中には2番目の「ペストリーブレンダー」(または「ペーストリーブレンダー」や「ペイストリーブレンダー」) という名称が使われているものもありますが、言いやすさを重視する日本人には少し長すぎる表現かもしれません。

そうなると言いやすくて意味も(少なくともアメリカ英語では)適切な1番目の dough blender を「ドーブレンダー」と表現するのがよさそうですが、「ドー」が何を意味するのか分からない人が多いと思いますので、結局のところ「パイブレンダー」が一番いいのかもしれません。

ただ、そもそも大多数の国民が普段の生活で英語を使わないこの国であえて英語名を使う必要はないため、この器具は「パイ生地混ぜ器」とでも呼べばいいような気がします。

以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで多くのオンライン和英辞書に「パイブレンダー」が載るときは、訳語として dough blender や pastry blender が載ることになるかもしれません。

せっかく焼き上げたパイを「パイブレンダー」という名称のせいで誤って潰して混ぜてしまう人もいるかもしれませんので(いないと思います)、この器具のメーカーの方はこの機会に商品名の変更をご検討されてはいかがでしょうか?

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