オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第60回は「POP広告」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑ポップ体のフォントで書いたこれをポップアップスタイルで売り場に貼れば「POP広告」?
まず、「POP広告」とはスーパーやドラッグストアなどの商店で見られる広告のことで、この「POP」は日本では「ポップ」と呼ぶのが普通です(アルファベットとカタカナのどちらの表記も使われます)。
では、その「POP広告」はオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか? 見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の英語訳
1. point-of-purchase advertisement/advertising
2. POP advertisement/advertising
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
Weblio(辞書)
ご覧のとおり、2つの訳語が見つかりました。これで「POP」が point of purchase の略だということが分かりましたが、この英語は一体何を意味するのでしょうか?
以下では、POP広告の1つである「スイングPOP」の表現なども含め、「POP広告」の英語について分かりやすく説明します。
POP vs POS
まず、point of purchase を「購入時点」と説明している国語辞書や英和辞書がありますが、英英辞書などの多くは place や location と説明していることから「購入地点」と表現するほうが正しいでしょう。
この「購入地点」は例えばスーパーであればレジカウンターのことに思えますが、これには「販売地点」を意味する point of sale という別の表現があり、略すと「POSレジ」のように POS になります。一方、「購入地点」の point of purchase (POP) はレジカウンターエリア以外のあらゆる商品陳列場所(買い物客が購入を決断する場所)に該当し、特に通路の端など買い物客の目を引く場所を指すことがあります。
この point of sale (POS) と point of purchase (POP) の解釈は人や状況によって違うことがありますが(どちらも販売・購入が行われる「商店 (shop/store)」自体を意味する場合もあります)、今説明した内容が多くの英語のウェブページで説明されている違いです。
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↑お店の売り上げが伸びて嬉しそうなPOSレジ係。
「POP広告」は英語で何と言う?
さて、「POP」が「購入地点」を意味するため「POP広告」は「購入地点における広告」という意味になり、購入地点(レジカウンターエリア以外のあらゆる商品陳列場所)にある poster (ポスター)、floor stand (床スタンド)、hanging banner (吊り下げバナー) などの商品広告すべてが「POP広告」に含まれます。
POP advertising は「POP広告」という意味ですが、advertising は不可算名詞 (数えられない名詞) のため1つのPOP広告は "a POP advertisement" や "a POP advertising display" と表現します。ただ、買い物客の目を引くために存在するこれらのものの中には「広告」とは呼べないものもあるためか、advertising (広告) の部分がない POP display という表現を使うのが普通です(単に POP と略すこともできます)。
この POP display の "display" はパソコンなどのディスプレイ (表示装置) ではなく「展示、陳列、装飾」などを意味するものですが、以降の説明では英語に合わせてそのまま「POPディスプレイ」と表現します。なお、先ほどのポスターや床スタンドなどに加え、ショッピングカートに貼られている広告、ロゴ入り床マット、次の写真のように通路の端に置かれているボックスや棚なども「POPディスプレイ」の一種です。
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↑写真中央右寄りの白い4段ボックスもPOPディスプレイの一種で、free-standing display (unit) や floor standing display (unit) と呼ばれる(略して FSDU)。その後ろにあるミネラルウォーターなどが置かれている通路端の目立つ棚は endcap (display) と呼ばれるPOPディスプレイ。
日本では冒頭の写真のようにポップ体のフォントが似合う小さなカードや棚からポップアップのように浮き出ているPOPディスプレイを単に「ポップ」と呼ぶのが普通ですが、ポスターやバナーなどのPOPディスプレイをそう呼ばないのはその見た目に「ポップ」という表現が合わないからでしょうか? それともポスターやバナーと違ってこれらの小さなPOPディスプレイは何と呼んだらいいか分からないからでしょうか?
棚に取り付けられているPOPは英語で何と言う?
商品棚に取り付けられているPOPディスプレイは、英語では shelf talker と呼ばれています(shelf barker や shelf screamer と呼ぶ人もいるようです)。日本でもPOP制作会社などはこのタイプをカタカナで「シェルフトーカー」と表現していますが、お店では単に「ポップ」と呼ぶのが普通だと思います(先ほど説明したとおり「POP (ポップ)」はポスターや床スタンドなどあらゆるPOPディスプレイを意味すべきですが)。
この「シェルフトーカー」を棚と商品の間に敷くタイプと説明している流通/プロモーション用語集もありますが、例えば次の写真の2つの印刷物のように、敷くタイプではなくても買い物客の目を引くために棚に取り付けられたメッセージ入りのPOPディスプレイであれば英語ではすべて shelf talker です。
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↑買い物客の目を引くために棚に取り付けられたこのようなPOPディスプレイはすべて shelf talker。
なお、ファミレスなどのテーブルに置いてある立体広告(お勧めメニューなど)は英語で table talker と呼ばれています(テント型であれば table tent などタイプ別の名称もあります)。日本では自動販売機やその中の飲料にも購入者の目を引くための小さなメッセージ入りシールやカードが付いているものがありますが、これらも「トーカー」(または次に説明する「ウォブラー」) と呼ぶのが適切かもしれません。
「スイングPOP」は英語で何と言う?
最後は「スイングPOP」についてです。これは触れるとゆらゆらとスイングする (揺れる) POPディスプレイのことで、次の画像のように棚に取り付けるタイプであれば先ほどの「シェルフトーカー」の一種です。
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↑触れたり風が当たるとスイングするPOPだから「スイングPOP」。音楽のジャンルと勘違いしてはいけない。
この「スイングPOP」(または「スイングポップ」) の英語を載せているオンライン和英辞書や英語学習サイトは今のところないようですが、英語では shelf wobbler (シェルフウォブラー) と呼ばれています。wobbler は「よろよろする人」や「ゆらゆら揺れるもの」を意味するため、棚以外の場所に設置されたPOPディスプレイで同じくゆらゆら揺れるものであればそれも wobbler と呼べるでしょう。
なお、1つ前の商品棚の写真で棚と垂直に取り付けられた丸いカードがありましたが、あれもウォブラーと考えて bus stop shelf wobbler と表現している英語のウェブページがいくつか見られます。これはスクールバスに取り付けられている丸いSTOPサインと形・向きが似ていることからそう表現しているのだと思います。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回はあまり一般的な内容ではありませんでしたが、普段スーパーなどで目にする広告や販売促進用のディスプレイが業界では何と呼ばれているのか、そしてそれを英語では何と表現するのかを知ることができたと思います。
インターネットで検索すると「店内のPOPやポスター」という日本語がいくつも見られますが、店内のポスターも購入地点に貼られている商品広告であればPOPだということを覚えておきましょう。