オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第9回は「社長」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
geralt / Pixabay.com
↑いつからか日本でも使われるようになった「CEO」という肩書き。あなたの会社の社長は本当に president や CEO?
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「社長」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. boss
2. CEO
3. chief operating officer (COO)
4. company president
5. director
6. director-general
7. executive director
8. executive head
9. head of a company
10. manager
11. managing director
12. president (of a company)
13. presiding officer
アメリカ発 ビジネス現場の英語
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
EIGORIAN.NET
英辞郎 on the WEB(辞書)
英会話スクール比較ナビ
英これナビ
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
メール通信講座 英語de日記
マナラボ
MYスキ英語
Reverso Context(辞書)
砥石と研削研磨の情報サイト
Weblio(辞書)
Weblio英会話コラム
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、いろいろな訳語が見つかりました。これではどれを使えばいいか迷ってしまいます。なぜ「社長」の英語として一般的に知られる president だけではいけないのでしょうか?
以下では、どの辞書・サイトも載せていなかった中小企業の社長の例も含め、「社長」の英語について分かりやすく説明します。
President が存在しない?
まず、president という肩書きはイギリスの会社では普通使われず、managing director や省略形の MD が使われます。また、アメリカの president という言葉は大企業の社長のイメージがあるためか、中小企業が自社の社長を president と表現すると大げさに感じるイギリス人が結構います。
アメリカでは president が CEO (最高経営責任者) を兼任する場合もあれば、president と CEO が別々にいることもあるため、イギリスの managing director はアメリカの president と CEO のどちらにも該当する場合があります(CEO は chief executive officer の略です)。
また、アメリカの中小企業では法律上は president でも普段の業務では別の肩書きを使う人もいるため、その場合も社長を president と呼ばないほうがいいかもしれません。
Jira / Rawpixel.com
↑体に悪い姿勢でSNSに没頭する社長。
誰が社長?
さて、「社長」は会社の日々の業務執行における最高責任者のため、「最高業務執行責任者」を意味する chief operating officer (COO) を「社長」と考えることもできます。
アメリカの大企業では board of directors (取締役会) とその会長の chairman (この "man" を「男性」と解釈して chairperson を使う人が多い)、CEO (最高経営責任者)、COO (最高業務執行責任者) という順で地位が低くなっていきますが、会社が小さめであれば president が CEO を兼任したり、大きければ chairman が CEO を兼任する(その場合は president が COO を兼任)など会社によって状況が多少違うようです。
そのため、アメリカでもイギリスでも役職名が明確な場合はその役職名(CEO、COO、president、managing director など)を使い、例えば "He is COO of a pharmaceutical company" (彼は製薬会社の最高業務執行責任者です) のように表現するのがいいでしょう。
「会社のトップ」という意味での「社長」
では、役職名が分からない場合や中小企業の場合でも迷わず使える「会社のトップ」という意味での「社長」は英語で何と言うのでしょうか?
そもそも「社長」という役職は日本の会社法では定められておらず、単に「会社という組織の長」を意味する言葉です。そして「長」は集団を統率する人を意味し、その同義語の「頭 (かしら)」は英語で head です。
そのため、取引先の規模や所在地 (国) によって表現を使い分けなくても相手の会社のトップを "the head of your company" と表現でき、少なくとも中小企業であればそれは「社長」を意味します。
geralt / Pixabay.com
↑「社長」とは「会社」という組織の「長」なのである。(だから腕組みをして上から目線でもいいわけだ...)
大企業の場合は誰がトップ?
大企業の場合は board of directors、chairman、CEO、president など head と呼ぶべき対象が人によって違うかもしれませんが、取締役会や会長のことではなく従業員にとっての最高責任者をそう呼ぶのが普通だと思います(実際、アメリカの大企業で CEO や president を "the head" と呼ぶ会社はあります)。
なお、boss も「社長」の意味で使えますが、これは親しい間柄やくだけた雰囲気の場以外では避けたほうがいい表現です。また、head も boss も役職名ではないので注意が必要です。
日本の中小企業の「社長」の役職名にはどの英語を使うのがいい?
最後に、日本の中小企業の社長の役職名にはどの表現を使えばいいのでしょうか?
取引先が主にアメリカ企業であれば社員が数名の小さな会社でも堂々と president と名乗り、たまにイギリスの企業と取引をする際に「大げさ」と思われても気にしなければいいでしょう。
逆に取引先が主にイギリス企業の場合は、社員が数名の会社であれば manager または director を使い、社内が部門に分かれているような中~大企業であれば managing director を使うのがいいでしょう(たまに取引するアメリカの企業には「実は弊社はブリティッシュ派なんです」と言っておけばいいと思います)。
ただ、これらの使い分けは面倒だと思いますので、その場合は先ほどの head を使って社員の方であれば "(社長の名前) is the head of our company"、社長本人であれば名刺には役職名を書いておきながら会話などでは "I'm the head of this company" のように表現するといいでしょう。もちろん「社長」に該当する名詞を使わなくても "I manage this company" と表現するだけで自分が社長だということを伝えられます。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか?「社長」の英語に head (of a company) を載せている辞書・サイトは4つだけでしたので、もっと多く載ることを期待したいと思います。
国によって社長の英語表現が違うのは面倒なため、誰かYouTube動画などで日本語の「社長」を世界中に広めてくれると中小企業の社長は迷わず名刺に "Shacho" と書けるようになるでしょう。
なお、日本語の「班長」が語源の head honcho という「(会社などの) 組織のトップ」を意味する口語表現があることも併せて覚えておきましょう。