オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第101回は「安心・安全」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑この security はもちろん「セキュリティー」。でも "job security" などの security はその意味ではないのだ...
まず、「安全・安心」という語順もありますが、インターネットで検索すると「安心・安全」のほうが圧倒的に多く見つかるため、以降でもこの語順を使います(個人的にもこの語順のほうをよく耳にします)。
では、まずオンライン和英辞書や英語学習サイトで「安心・安全」はどう英語に訳されているのでしょうか? 見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の英語訳
safe and secure
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
ご覧のとおり、「安心・安全」の英語を載せている辞書・サイトは3つしか見当たりませんでした(他にもこのフレーズの英語について説明したページはありましたが、明確な表現を載せているのはこの3つの辞書だけでした)。どれも訳語は safe and secure になっていますが、これは本当に「安心・安全」なのでしょうか?
以下では、名詞の safety と security の意味や使われ方の違いも含め、「安心・安全」の英語について分かりやすく説明します。
なぜ「安心・安全」?
まず、インターネットで検索すると「安心・安全」という言葉は「食の安心・安全」「暮らしの安心・安全」「子供/高齢者の安心・安全」などのフレーズで主に使われているのが分かります。そして「食の安心・安全」であれば、「食べ物について安心できること」と「食べ物が安全なこと」に分けて考えることができます。
「食べ物が安全なこと」は意味が明快ですが、「食べ物について安心できること」は安心できる理由が不明な表現です。「安全性が高いから安心」なのであれば語順は「安全・安心」になるはずで、「供給が途絶えず安心」や「いつもと同じ味で安心」などの理由も含むのであれば、安全性という理由だけを取り上げて「食の安心・安全」とするのではなく、「食の安心」とだけ表現するのが適切に思えます(曖昧すぎる表現ですが...)。
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↑「皆さん、この国の食の安心・安全は本当に守られているのでしょうか?」「おーい、それ語順が逆じゃないかぁ?」
Safe/Safety と Secure/Security の違い
さて、「安心・安全」はオンライン和英辞書で safe and secure と訳されていましたが、名詞として表現すると safety and security になります。これらの単語の違いは一体何でしょうか?
safety と security にはどちらも「安全」の意味があり、英語のウェブサイトやYouTube動画では safety が「事故など意図的ではない危険に対する安全」で security は「犯罪など意図的な危険に対する安全」と説明されています。ただ、この説明に該当しない場合もあるので絶対的なルールと考えないほうがいいでしょう。
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↑「シートベルトは safety belt と security belt のどっちか分かるかしら?」「そのまま seat belt でもいいじゃん!」
形容詞の safe と secure も日本語では同じ「安全(な)」という言葉で表されることが多いですが、人、物、場所のどれに使うかや、どのような意味で安全なのかという点で多少の違いがあります(これらの違いは英和辞書/英英辞書の説明や例文を見ると分かるようになっています)。
また、secure には「保証/保障されている」という意味もあり、例えば job security の security は先ほどの「犯罪など意図的な危険に対する安全」ではなく、「地位や状態がそこなわれないように保護して守ること」という「保障」を意味します。つまり、job security は「仕事が保障されていること (=失業の恐れがないこと)」という意味で「雇用の安心」と考えることができるのです(正しくは「雇用の安定」)。
「安心・安全」は英語で何と言う?
では、結局「安心・安全」は英語で何と言うのでしょうか?
例えば、「食の安心・安全」の「安心」は先ほどの「供給が途絶えず安心」や「いつもと同じ味で安心」などではなく、「安全性が高いから安心」を意味するのが普通だと思います(違うのであれば、「食の安定供給と安全性」のように具体的に安心できる理由を表現すべきでしょう)。実際、日本語版ウィキペディアの『食の安全』のページには、「食の安心」について「《安心》とは安全についての信頼感」という説明が見られます。
その場合、最初に書いたとおり語順は「食の安全・安心」のほうが正しいと思いますが、英語ではわざわざ「安心」まで表現しないのが普通です。つまり、「食の安心・安全」は単に「食の安全」と考えて food safety と表現すればいいということです(security を足すと「食の安定供給」の意味も加わってしまいます)。
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↑food security とはこのようにスーパーで食品を守るセキュリティーガード (警備員) のことではない...
なお、「安心」を「信頼できるから安心」と考えて reliable (信頼できる) や reliability (信頼性) と表現できる場合がありますが、食べ物自体をそう表現すると「食べ物は壊れたり故障するものではないので何が言いたいのか分からない」と感じるネイティブスピーカーが多いため、食べ物の「安心」に reliability は使わないほうがいいでしょう。似た意味の trustworthiness (信頼性/信用性) も不自然さがあります。
一方、「安心」を「保証/確約されているから安心」と考えて assurance (保証/確約) と表現できる場合もあり、例えば「食の安心・安全」が「食べ物が安全であり、それを確かだと約束してくれること(によって安心できること)」を意味するのであれば、それは food safety and its assurance と表現できます。もし単に「食べ物が安全であること(によって安心できること)」という意味であれば food safety だけで十分です。
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↑QAと略されることが多いこの quality assurance は「品質保証」という意味。例えば「安心の品質」は「品質が保証/確約されているから安心」と考えて assured quality (確かな品質) と表現できる。
最初の「安心・安全」の例には「暮らしの安心・安全」もありましたが、これも単に「安全に暮らせる地域社会(によって安心できること)」を意味するのであれば、「安心」の部分は省いて safe community と表現するだけでいいでしょう(この場合は secure を使わず safe だけで犯罪など意図的な危険に対する安全も意味します)。なお、「暮らしの安心」は「不安のない安定した暮らし」と考えれば secure life と表現できます。
「安心(感)」に該当する英語には他にも (a sense of) reassurance (他者からの言葉や行動によって与えられる安心(感))、(a sense of) relief (ほっとするという意味での安心(感))、peace of mind (心の平安) などがありますが、これらを safety/security と一緒に使おうとすると逆に不自然になってしまうと思います。
結局のところ、安心の理由が明確な場合は「安全(だから安心)」「信頼できる(から安心)」「高品質(だから安心)」のように理由を説明するだけで普通は十分でしょう(それだけで安心できることまで意味します)。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで safe/safety と secure/security の違いや「安心」の英語について少し分かりやすくなったかもしれません。
和英辞書などを普段から利用されている方は、そこに載っている英語が正しいと信じて安心してはいけません。少しでも怪しいと思ったら、他の情報源を調べたり複数のネイティブスピーカーに確認するなどして判断するのが安全です。