オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第23回は「シーン」の英語についてです。
注意 言葉は時代、状況、文脈などによって変化する場合があることを留意してお読みください。また、以下の内容はアメリカとイギリス以外の英語圏には該当しない可能性があります。
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↑誰もが集中しているふりをしてシーンとするビジネスの一場面。
まず、仕事関連の記事や広告などで「ビジネスシーン」という言葉がよく使われますが、このような場合の「シーン」はオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の英語訳
1. scenario
2. scene
3. setting
4. situation
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、4つの訳語が見つかりました。「ビジネスシーン」のような表現はあまり普段の会話では使わないためか、今回訳語が見つかった辞書のほとんどは映画やドラマのシーンの意味で scene や shot などの単語を載せていました(shot などは今回の「シーン」とは無関係のため上の一覧には含めていません)。
以下では、「シーン」を scene と表現しないほうがいい例とその理由を分かりやすく説明します。
「ビジネスシーン」などに使われる「シーン」とは
まず、オンライン類語辞書のWeblio類語辞典で日本語の「ビジネスシーン」の意味を調べると、「ビジネスにおける雰囲気や場面のこと」という説明と共に似た表現として「ビジネスの場(面)」と「仕事の場(面)」が載っています。この中で「ビジネスシーン」に最も近い表現は「ビジネスの場面」だと言えるでしょう。
次に、「ビジネスシーン」のような「シーン」の使い方の具体例を挙げるため、検索エンジンで「シーンで活躍」というフレーズを入力して検索してみました。以下はその結果見つかったいくつかの例です。
「様々なシーンで活躍する天然水」
「多彩なシーンで活躍!ラジオ録るなら、○○のラジオレコーダー」
「アウトドアシーンで活躍 折りたたみ椅子」
「世界の音楽シーンで活躍するアーティスト」
「シーン」という日本語は映画やドラマの「場面」を意味する scene をカタカナにしたものですが、それがいつの間にか画面の外に飛び出して現実の「場面」にも使われるようになってしまったのだと思います。これに対し、英語では現実の世界における「場面」を scene とは表現しないのが普通です。
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↑映画やドラマのさまざまなシーンで活躍するカチンコ。この「シーン」には "scene" が適切だ。
現実の世界でも Scene が使われる例
先ほどの日本語の例のうち、最後の「音楽シーン」以外はすべて「シーン」の部分を「(の)場面」に置き換えることができます。そしてこれらは現実の世界における場面のため scene と表現するのは適切ではありません。一方、最後の「音楽シーン」は「場面」ではなく「場」と考えるほうが適切で、活躍の場としての「○○界」という意味で英語でも scene が使われます。
「シーン」を「景色」や「光景」に置き換えられる場合も英語の scene が使えますが(sight のほうが普通ですが)、上の5つの例の「シーン」をこれらの表現に置き換えると違和感があるのが分かると思います。
なお、事件現場や犯行現場の「現場」にも scene は使われます。
「ビジネスシーン」を英語にすると?
では、「ビジネスの場面」を意味する「ビジネスシーン」は英語で何と言うのでしょうか? これは「場面」が和英辞書でどのように英語に訳されているのかを調べると分かります。この場合も映画やドラマの場面の意味で scene が主な訳語でしたが、situation や occasion を載せている辞書もありました。
今回「シーン」の英語を検索した際に occasion を載せている和英辞書はなく、situation を載せているものは1つ(『Glosbe』)、setting を載せているものは3つ(『Glosbe』『Reverso Context』『Weblio』)だけでしたが、この situation、occasion、setting が「ビジネスシーン」などの「シーン」に適した単語です(scenario は「場面」ではなく「場合」です)。
例えば、先ほどの「ビジネスシーンで活躍する多機能バックパック」であれば "a multi-function backpack that will come in handy in (a variety of) business situations" のように表現できます。
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↑ビジネスシーンで絶対に活躍しないバックパック。
Situation と Occasion の違い
situation は日本語でも「状況・場面」の意味で「シチュエーション」と表現されるため分かりやすいですが、occasion を「オケージョン」と表現するのはマーケティングなど一部の業界の人たちだけのためピンと来ないかもしれません。
この2つの単語の違いは situation が状況や場面という「場 (place)」、occasion がその状況・場面の「時 (time)」と考えると分かりやすく、英語では「○○の場面で」と言うときに "in a situation where" や "on an occasion when" と表現します(situation は where よりも in which のほうが好ましいとする人がいたり、occasion は on an occasion を削除して単に when と表現するほうが自然な場合が多いです)。
なお、situation に似た意味の circumstance という単語がありますが、これは複数形にして前置詞も in より under を使うのが普通で、「○○の状況(下)では」という意味になります。この situation、occasion、circumstance の違いはネイティブスピーカーでもよく分からない場合があります。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? 今回説明した「ビジネスシーン」などの「シーン」の適切な英語訳や意味の違いが多くのオンライン和英辞書に載ることを期待したいと思います。
広告やマーケティング関係のお仕事をされている方は、英語の scene を使うのが適切でない文脈では地味でも「場面」という日本語を使うことをお勧めします(どうしてもカタカナを使いたい場合は「シチュエーション」にすればいいでしょう)。そして上司から「ここは普通は『シーン』を使うだろ~」と言われたら、実は英語ではそのほうが適切でないことを教えてあげましょう。