オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第142回は「専門家」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑会議で専門知識を出し合う専門家たち。さて「専門家」や「専門知識」は英語で何と言う?
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「専門家」はどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. authority
2. expert
3. maven
4. professional
5. pundit
6. specialiser / specializer
7. specialist
8. technician
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
英辞郎 on the WEB(辞書)
goo(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、主に8つの訳語が見つかりました。この中で圧倒的に多かったのは expert と specialist で、次いで多かったのは professional です。これらの違いは一体何でしょうか?
以下では、この3つの名詞の違いや「専門知識/専門技術」の表現も含め、「専門家」の英語について分かりやすく説明します。
Expert
まず、expert (エキスパート) は主な英和辞書で「熟練者」「達人」「プロ」のように訳されていますが、必ずしも経験を積んでいる必要はないため「熟練者」については「精通者」と表現するほうが適切です。
そしてあらゆることに精通している人や何もかも達者な奇跡的な人がいたら、その人はすべてにおいてエキスパートですが「専門」としている分野がないため「専門家」とは呼べません。この場合、「彼女は何をやってもプロだ (=達者だ)」と言いたければ "She is an expert at everything" と表現できます(何かをすることが達者な場合はこのように at、特定の話題/分野について詳しい場合は on/in を前置詞に使います)。
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↑「君は何をやってもプロだな」「エキスパートってことね?」
なお、expert knowledge (エキスパートレベルの知識) と expert skill(s) (エキスパートレベルの技術) の両方の意味を持つ expertise は主な英和辞書で「専門(的)知識」や「専門(的)技術」と訳されていますが、この単語にも本当は「専門」の意味はありません。expert が「専門(家)」と表現される理由は、この単語と全く同じ意味の自然な日本語がないからだと思います(以降の説明でも「エキスパート」と表現します)。
Specialist
specialist (スペシャリスト) は「あることを専門にしている人」という意味で、多方面の知識や技術を持つ人を意味する generalist の対義語です(動詞の specialize は「専門にする」を意味します)。specialist の中には「専門家」と表現すると硬すぎると感じる人もいるかもしれませんが、意味としては同じです。
主な国語辞書によると「専門家」は専門分野を持つ人の中で「それに精通している人」とのことですが、英語の specialist をエキスパートレベルに達している専門家と考えるかどうかは人や状況によって違います(英英辞書によっても違います)。そのため、「エキスパートレベルにある人たち」という意味で「彼らは専門家です」と言いたい場合は "They are specialists" よりも "They are experts" と表現するほうがいいでしょう。
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↑「あなたエキスパートなんだからもっと上手くできるでしょ?」「いえ、私は単なるスペシャリストです...」
先ほどの「専門知識」と「専門技術」も本当に「専門」の知識/技術という意味であればそれぞれ specialist knowledge と specialist skill(s) になりますが、「エキスパートレベルの(専門)知識」や「エキスパートレベルの(専門)技術」と言いたい場合は (specialist) expertise と表現するのが最適です。
Professional
professional (プロフェッショナル) は医師や弁護士など高度な知識や技術を必要とする仕事をしている「専門職の人」を意味します(profession は「専門職」という意味です)。そのため、ある分野のエキスパートや専門家でも失業中などで現在その分野の職に就いていなければ professional とは呼べません。
また、この単語にはスポーツなど趣味でもできることを職業にしている人(つまりアマチュアに対する「プロ」)の意味もありますが、この意味で「専門家」という日本語を使うことは普通ないと思います。
自らを expert や specialist と呼ぶ人は本当にその分野の知識や技術があるのか不明ですが(誰でもそう自称できるため)、professional と名乗っている人は少なくとも職業として成り立つだけの知識や技術はあることになります(つまりそれなりに信頼できるということです)。
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↑このような医師や看護師の他、薬剤師や心理学者なども healthcare professional (医療専門家) に含まれる。
「専門家」のその他の訳語
最後は、今回見つかった「専門家」のその他の訳語についてです。
maven: アメリカで expert と同じ意味で新聞、雑誌、テレビなどで使われることがある。
pundit: メディアに登場して意見を述べる専門家(または専門家ぶった人)に使われることがある。
specialiser/specializer:「専門家」にこの単語を使う人は(少なくとも今の時代は)まずいない。
technician:(特に科学/工学の)技術者。
このように場面によっては「専門家」の意味で使えるものもありますが、普通は今回主に説明した expert、specialist、professional の中から適切と感じるものを使うのがいいでしょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで「専門家」の英語表現の違いが分かりやすくなったかもしれません。
このブログを書いている私は一応英語を専門にしていますが、「専門家」や「エキスパート」と呼ばれると何となく居心地が悪いのでそう呼ばないようにしましょう...