オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第197回は「棚」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
Teddy / Rawpixel.com
↑「皆さんは shelf と rack の違いをご存じですか?」(ついでに cabinet と ledge についても教えてください...)
まず、日本ではいつからか棚を「シェルフ」と呼ぶ人たちが見られるようになりましたが、「棚」はオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. cabinet
2. ledge
3. rack
4. shelf
5. shelves
6. shelving
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
英語塾 六単塾
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
ハウジー
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、いろいろな訳語が見つかりました。この中で最も多かったのは shelf (シェルフ) です。ということは棚を1つ買った場合は "I bought a shelf" と表現すればいいということでしょうか?
以下では、「本棚」の bookshelf と bookcase の違いや「格子棚/格子ラック」の表現も含め、「棚」の英語について分かりやすく説明します。
Shelf と Shelves と Shelving の違い
まず、「棚は英語で shelf」と説明している人が多く見られますが、これは誤解を招く説明です。「棚」という日本語は棚板1枚の他に「本棚」「食器棚」「店内の陳列棚」など複数の棚板の意味でも使われますが、英語の shelf は棚板1枚を意味するのが普通です。そして複数の棚板であれば複数形で shelves と表現します。
家具の販売サイトなどでは複数の棚板から成る本棚1つを単数形で bookshelf と表現していることも多いですが、一般的には bookshelf は本を載せる目的で壁に打ち付けた棚板1枚または複数の棚板から成る本棚の中の1枚の棚板を意味します。そしてその複数の棚板から成る本棚は側板や背板(やガラス戸)が付いたケース状のものが多いため、bookcase (複数形は bookcases) と表現するのが普通です。
Jonathan Borba / Unsplash.com
↑この写真には左右に分かれた bookcase が1つ写っており、その中には数枚の shelf (=several shelves) が見える。
bookshelf は「1枚、2枚」、bookcase は「1つ、2つ」と数えられる「可算名詞」で、どこからどこまでが「1つ」なのか分からない図書館などの本棚は全体を複数形で bookshelves (普通は単に shelves) と表現し、明確に「1つ」と数えられる家具の本棚の場合は全体(本棚1つ)を単数形で bookcase とも表現できます。
また、shelving という単語も名詞では「棚」を意味しますが、これは今説明した (book)shelf/shelves や bookcase(s) と違って数えられない「不可算名詞」のため、例えば下の写真のような家具の棚3つを "three shelvings" と複数形で表せません。そこで、「3つ」と数えられるようにするには可算名詞の set や unit を使って "three sets of shelves" や "three shelving units" (または three shelf units) と表現します。
Spacejoy / Unsplash.com
↑本を載せることが目的とは言えないこのような棚1つは "a set of shelves" や "a shelving unit" (これは主にメーカーや販売者側が使う表現) と呼べる。ただしこのような棚でも "bookcase" や "bookshelf" として売られていることは多い。
Rack や Cabinet も本当に「棚」?
では、同じく今回見つかった主な訳語に含まれている rack や cabinet も「棚」なのでしょうか?
日本語でも「ラック」と呼ばれる rack は、スタンドやカゴや単なる棒も含め何かを載せたり掛けたりする物に広く使われる単語で、例えば dish rack (水切りカゴ) や overhead rack (頭上の棚 ※電車内の網棚など戸なしのもの)、そしてこのブログで取り上げた「シューズラック」や「ウォールハンガー」にも使われます。
Felix / Rawpixel.com
↑このタオル掛けや右の台所のタオル掛けも towel rack。その奥のエリアには coat rack (コート掛け) があると思われる。
電車内やバス内の頭上の棚ではなく複数の棚板から成る家具の棚でも日本語では「メタルラック/スチールラック」のように「ラック」と呼ぶことが多いですが、英語では先ほど書いたとおり bookcase (本棚) など一部を除いては棚全体(1つ)を "(a set of) shelves" や "(a) shelving (unit)" と表現するのが普通です。
ただ、少なくとも靴やDVDの場合は棚状のものでも(戸なしタイプであれば)rack と呼ぶのが普通です。つまり、同じ棚でも書籍用であれば bookcase/bookshelves、靴用であれば shoe rack(ただしこれは棚以外のタイプにも該当する言葉)、特定の用途を意図していないものであれば日本語では「ラック」と呼ばれていても英語では shelves や shelving/shelf unit と呼ぶのが普通ということです。
なお、格子棚も日本では「ラック」という言葉を使って「格子ラック」と呼ばれることがありますが、これも靴用などではなく用途が自由なものは英語では shelves や shelving/shelf unit と呼ぶのが普通です。残念ながら英語には格子状の棚を意味する一般的な表現がないため、このタイプの棚を呼び分けたい場合は郵便物の仕分け棚を意味する pigeonholes や cubbyholes などの言葉を使って説明するしかないと思います。
Peter Heeling / Skitterphoto.com
↑靴を載せたり掛けたりするものはこのような棚(ただし戸なしタイプのみ)でもそれ以外のタイプでも shoe rack。
一方、同じく日本語でも「キャビネット」と呼ばれる cabinet は、戸が付いた「戸棚」に使うのが普通です(ただし引き出しや戸なし部分があるものでもそう呼べます)。例えば、書類を保管する filing cabinet やワインを保管する wine cabinet の他、このブログで取り上げたものでは戸棚タイプの「下駄箱」や「食器棚」にも使われます。また、先ほどのタオル掛けの写真の洗面台の下にある戸棚も cabinet です。
最後に、今回見つかった主な訳語で残された ledge は、壁面から突き出ている棚状の突起を意味します。例えば映画やドラマで隣のマンションの部屋に窓から侵入する際に歩いて渡る突起部や、棚のように張り出している岩場の「岩棚」には使えますが、家具などの棚にこの単語を使うことはまずないでしょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか? これで「棚」に使えるいろいろな英語表現の違いが分かりやすくなったかもしれません。
英語のほうが短くて言いやすい言葉はカタカナ英語を使うのがいいと思いますが、「棚」はとても短くて言いやすいのでわざわざ「シェルフ」や「ラック」と英語を真似する必要はないでしょう...