オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第48回は「お茶」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
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↑「あなた、お茶のおかわりはいかがですか?」「おいおい、これはお茶じゃなくて紅茶じゃないか...」
まず、今回説明する「お茶」とは飲み物のお茶のことで、「お茶する」や「お茶会」などで使われる「飲食しながら会話などを楽しむ時間」という意味での「お茶」ではありません。
では、この「お茶」はオンライン和英辞書や英語学習サイトでどう英語に訳されているのでしょうか? 見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の英語訳
1. cuppa
2. green tea
3. hot tea
4. tea
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
英語学習徹底攻略
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
産業翻訳だよ! 全員集合(辞書)
TOEIC990.net
Weblio(辞書)
Weblio英会話コラム
WebSaru(辞書)
ご覧のとおり、4つの訳語が見つかりました。この中で圧倒的に多かったのは最後の tea ですが、これは「お茶」ではなく「紅茶」ではないでしょうか? また、1番目の cuppa とは何でしょうか?
以下では、どの辞書・サイトも載せていなかった表現も含め、「お茶」の英語について分かりやすく説明します。
お茶 ≠ 茶
まず、日本で「お茶」と言えば「緑茶」を指すと説明している英語学習サイトがいくつかありましたが、本当にそうでしょうか?
例えば飲食店で「お冷ではなく温かいお茶はありますか?」と尋ねて店員がほうじ茶を持ってきたら、「お茶を頼んだのに何でほうじ茶を持ってきたんだろう?」と思うでしょうか? また、例えばコンビニに買い物に行く友達に「何でもいいから冷たいお茶買ってきて」と頼んでその友達が麦茶や玄米茶を買ってきたら、「お茶売り切れてたの?」と聞くでしょうか? 普通はこれらの茶も「お茶」と見なすはずです。
一方、もしその店員/友達が紅茶を持ってきたら、「紅茶!?」とビックリするのではないでしょうか? そうであれば、英語で tea が付くこれらの飲み物はすべて「茶」ではあるものの、少なくとも紅茶は「お茶」と呼ぶのには違和感があるということになります。
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↑「このお茶は何ですか?」「これはウーロン茶です」
飲料メーカーはどう考えている?
さて、これらの茶飲料を日本の飲料メーカーはどう分類しているのでしょうか? 少なくとも日本茶、中国茶、紅茶の3種類を販売するメーカー5社のウェブサイトや資料を見てみると、すべての茶を「お茶飲料」という1つのカテゴリーにまとめている1社を除けばすべてのメーカーが紅茶とその他の茶を別物として分けています。
そして各社の英語版ウェブサイトや英語の資料を見てみると、紅茶については black tea という表現が使われています。これは「ミルクを入れずにブラックで飲む紅茶」という意味ではなく、数多くある茶の種類の中の「紅茶」を指す正しい言葉で、これが「緑茶」であればもちろん green tea になります。つまり、本人が気づいているかどうかは別として、欧米などではこの black tea を略して紅茶を tea と呼んでいるのです。
では、これらのメーカーは日本茶や中国茶などの「お茶」を英語でどう表現しているのでしょうか? 日本茶と中国茶を分けて Japanese tea と Chinese tea と表現しているメーカーもあれば、両方とも「無糖茶」と考えて sugar-free tea、non-sugar tea、unsweetened tea のように表現しているメーカーもあります。
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↑「さあさあ、無糖だからカロリーを気にせずどんどんお飲みなさい」(バシャッバシャッバシャッ)「あっちゃっちゃっ!!!」
「お茶」は英語で何と言う?
これで「お茶」とは「日本茶・中国茶」と「無糖茶」のどちらかを意味する言葉だと言えそうですが、例えば「お茶」と呼ぶにはやや違和感のあるハーブティーも無糖で飲むのが普通だったり、紅茶も無糖で飲む人は少なくないため、「無糖茶」と「お茶」はどうも違うような気がします。なお、無糖でも甘味料で甘くしている紅茶もあるため、「甘味を加えていない」と言いたいのであれば unsweetened と表現するのが適切です。
一方、例外はあるとしても私たちが「お茶」と呼ぶものは普通は日本茶か中国茶のため、紅茶と分けて「お茶」を英語で表現する必要がある場合は Japanese or Chinese tea と表現するのが無難と言えます。実は、他の多くの茶と同じく紅茶も中国発祥なのですが、今でも飲まれているこの中国の紅茶はミルクや砂糖を入れずに飲むのが普通で、容器も湯のみ茶碗のため見た目も味も「お茶」と呼ぶのが相応しいと言えます。
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↑このお茶がウーロン茶、紅茶、プーアール茶のどれだかあなたには分かるだろうか?(私には分かりません...)
なお、今回見つかった4つの訳語については、1番目の cuppa は cup of tea (1杯の紅茶) の略としてイギリスで使われている表現、green tea と hot tea はもちろんそれぞれ「緑茶」と「温かい(紅)茶」、そして最後の tea は英語圏では「紅茶」を意味するのが普通のため、中国茶や冷たい麦茶などにも使われる「お茶」という日本語の英語としてどれも適切とは言えないでしょう。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか?「お茶」を単に tea と訳している和英辞書はこの機会にお茶の英語について考え直してみるといいかもしれません。
「お茶は大好きだけど紅茶はあんまり...」という方は、英語圏で好きな飲み物を尋ねられたら紅茶好きと誤解されないよう単に "Tea" と答えず、"Green tea" (緑茶)、"Roasted green tea" (ほうじ茶)、"Barley tea" (麦茶)、"Brown rice tea" (玄米茶)、"Pu-erh tea" (プーアール茶) など好きなお茶の種類を明確に答えるのがいいでしょう。