オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第75回は「上着 (ジャケット等)」「アウター」「トップス」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
Chanikarn Thongsupa / Rawpixel.com
↑「これいいトップスだわね」「いやこれアウターでしょ?」「あたしのはどっちよ?」
まず、衣服のタイプ/カテゴリーを表す「上着」「アウター」「トップス」という言葉はオンライン和英辞書や英語学習サイトでそれぞれどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった主な訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の主な英語訳
1. coat
2. jacket
3. outer garment
4. outerwear / outer wear
5. overgarment
6. tunic
インターネット上の主な英語訳
1. jacket
2. outer
3. outerwear
4. overgarment
インターネット上の主な英語訳
1. top(s)
2. upper garment
アメリカ生活 101
bab.la(辞書)
ちょんまげ英語塾
CUERBO(辞書)
DMM英会話なんてuKnow?
英辞郎 on the WEB(辞書)
英会話スクールBEGIN
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
みんなで作るネーミング辞典(辞書)
Reverso Context(辞書)
産業翻訳だよ! 全員集合(辞書)
Weblio(辞書)
Weblio英会話コラム
WebSaru(辞書)
Yahoo!知恵袋
ご覧のとおり、いろいろな訳語が見つかりました。「上着」と「アウター」の両方に jacket、outerwear、overgarment の3つが含まれていますが、「上着」と「アウター」は同じなのでしょうか?
以下では、「上着」に分類される「ジャケット」の表現も含め、「上着」「アウター」「トップス」の英語について分かりやすく説明します。
上着 vs アウター
まず、主な国語辞書を見ると「上着」には「1. 最も外側に着るもの」と「2. (上下に分かれた服の) 上半身に着るもの」の2つの意味があり、1はコートやジャケット、2は肌に直接着るパジャマの上着、両方に当てはまるのはコートを着ない時期のスーツの上着やベンチコートを着ない人のジャージの上着などが思い浮かびます。
一方、「アウター」は outer (外側の/外部の) をカタカナにした言葉で、この文字を含む outerwear が「上着」と「アウター」のどちらにも含まれています。ということは「アウター」は「1. 最も外側に着るもの」という意味での「上着」であり、どちらも英語では outerwear と表現するのがいいということでしょうか?
Rawpixel / Rawpixel.com
↑「日本語の uwagi とは一体何かね? このコートもスーツのジャケットも uwagi なのかい?」
「上着」や「アウター」は英語で何と言う?
今回訳語が見つかった辞書・サイトの中には「アウター」を単に outer と訳している辞書が8つもあり、その中の1つは何と「[ファッション] an outer」と載せていました。これでは洋服のアウターは英語でも outer と呼ぶと勘違いしてしまうではありませんか?(英語でそう表現することはまずありません)
また、先ほどの outerwear を「アウター」の英語として載せている辞書・サイトもいくつかありましたが、この単語は本当に日本語の「アウター」と同じ意味なのでしょうか? 国語辞書や日本のファッション系サイトをいくつか見ると、「アウター」は次のように説明されています。
「外側に着る洋服や外套類の総称」
「外側に着る上着・トップスのこと」
「上半身に着用する上着の事」
「コート・ジャケットやシャツも含む」
「ボトムスも基本的に一番外側に着るので、アウターの1種」
このように「アウター」という日本語は人によって解釈が結構違いますが、下半身用の服は「着る」ではなく「履く」と表現することも含めて考えると、「アウター」は「上半身の外側に着る服」だと言えるでしょう。
では、英語の outerwear は何を意味するのでしょうか? 英英辞書をいくつも見れば、この単語には次の2つの意味があることが分かります(分かりやすいよう日本語で記載します)。
2. 下着ではない服(ドレス、セーター、スーツなど)
この単語は1を意味するのが普通ですが、それでも状況によっては帽子や手袋も含まれるため日本語の「アウター」よりも意味の広い言葉です(英語版ウィキペディアの『List of outerwear』のページにも縁あり帽子の hat が載っています)。また、同じく outer という単語を使った outer garment やそれに似た over を含む overgarment や overclothes も普段使うような一般的な言葉ではありません。
Rawpixel / Rawpixel.com
↑「帽子だってアウターだよなぁ?」「アウター?」「帽子は帽子って言えよw」
アメリカやイギリスのアパレル通販サイトでは、上着類のカテゴリーに "Coats & Jackets" などもっと具体的な表現が使われています。丈の長い厚手のコートの overcoat と(英英辞書などで「丈の短いコート」と説明されている)jacket はどちらも coat の一種ですが、jacket より少し長めのコートでも jacket と呼ぶ人も多いためか、上着類のカテゴリーを単に "Jackets" と表示しているサイトもあります。
では、「アウター」の最もシンプルな表現は jacket なのでしょうか? 残念ながら、アウターとは呼ばない背広の上着やそれに似たカジュアルジャケットも jacket です。これらは「上着」と呼んでもその上に着るコートは上着とは呼ばない人もいたり(レインコートは絶対に呼びませんが)、パジャマの上着は pajama/pyjama jacket (または pajama/pyjama top) と呼ばれるため、「上着」の英語が jacket だと言えるでしょう。
一方、coat は単に "a coat" と表現すれば普通はレインコートや背広の上着などを意味しないため、この単語が「アウター」なのかもしれません。もし主に冬に着る厚手のものに限定するのであれば、#65 『マフラー』の英語は本当に muffler や scarf? で説明した「マフラー」と同じく「冬用」と考えて winter coat、その中から jacket と呼べないほど丈長のものは除くのであれば winter jacket と表現するのが最適と言えます。
背広風のジャケットは英語で何と言う?
さて、昔は背広の上着を少しカジュアルな形やデザインにしたものを「ジャケット」と呼んでいたと思いますが、jacket が単に「コートより短く、普通は袖があり、前が全部(または一部)開く上着」を意味する言葉だと気づいたのか、今では日本語の「ジャケット」もその意味で使われている印象があります。ただ、「○○ジャケット」ではなく単に「ジャケット」と言うとあの背広風の上着をイメージする人がまだ多いと思います。
その背広風のジャケットは blazer または(男性の場合は)sport(s) coat/jacket と呼ばれており、どちらも上下セットで着る「スーツ」のジャケットの suit jacket と違う点では共通するものの、次のような違いがあるとされています。
- suit jacket よりカジュアルで sport(s) coat/jacket よりフォーマルなジャケット。
- 伝統的なスタイルのものはネイビーブルー色でボタンは金属製のものが多い。
- 学生やスポーツチームの制服としても着られている(日本でも「ブレザー」として有名)。
- 中に重ね着できるよう suit jacket より少しゆったりした作りになっている。
- 狩りや釣りなどのスポーツ用に着ていたジャケットが元になっているためこのように呼ばれている。
- blazer より色の種類が多く、柄入りのものもあって正式な場では着ないカジュアルなジャケット。
- 中に重ね着できるだけでなく、動きやすいよう blazer より少しゆったりした作りのものが多い。
- アメリカでは sport coat、イギリスでは sports jacket と呼ぶほうが多い。
このような違いがありますが、sport(s) coat/jacket は男性用のジャケットのため女性には該当しません。アパレル通販サイトを見る限り、女性用の背広風のジャケットはかなりカジュアルなものでも blazer と表現されています(女性用のジャケットは種類が多く、年齢層などによって呼び方も違うようなので正直よく分かりません)。また、blazer と sport(s) coat/jacket の違いがよく分からない男性も多いようです。
なお、背広風ではないカジュアルジャケットでもっとスポーツに向いていそうなタイプのものはいくつかありますが、通販サイトを見るとそのようなジャケットも sports jacket と表現されていることがあります(日本でも「スポーツジャケット」や「スポジャケ」と呼んでいるお店があります)。
Teddy / Rawpixel.com
↑「そうそう、オレが着てるのが本当のスポジャケだけどね」
「トップス」は英語で何と言う?
最後は「トップス」についてです。上半身の外側に着るものが「アウター」、下半身の外側に履くものが「ボトムス」、上半身・下半身に関係なく下着は「アンダーウェア」(略称を好む日本人がなぜこれを「アンダー」と略さないのか不思議)、下着ではないけれど内側に着るものが 「インナー」、そして上半身に着るものすべてが「トップス」ということでいいでしょうか?
アメリカやイギリスでは tops と bottoms という表現を服に使うのは以前は女性のシャツ類や上下セットのジャージやパジャマに限られたようですが、ファッション業界がその他の服にもこれらの表現を使い始めた影響で一般の人でもそう呼ぶ人が増えたようです。日本でも同じく業界用語の「トップス」を普通に使うようになっているため、英語の tops と日本語の「トップス」は同じと考えていいように思えます。
Teddy / Rawpixel.com
↑「も~、あたしのパジャマのボトムスはどこに消えちゃったのよ~」
ところが、日本、アメリカ、イギリスの主なアパレル通販サイトをそれぞれ5つ見てみたところ、日本では「トップス」のカテゴリーにTシャツ、シャツ、トレーナー、パーカーや女性の場合はブラウスやカーディガンも含まれているのに対し、アメリカとイギリスではこれらを tops とは分けて記載しているサイトが(特にイギリスで)結構ありました(メンズのメニューには "Tops" というカテゴリーがないサイトもありました)。
この場合の tops が具体的に何を指すのかは不明ですが、少なくとも今のところは日本語の「トップス」と全く同じように使える言葉とは言えないため、上下の関係性(組み合わせ)において「上の服」と言いたいときや、何と呼んだらいいのか分からない上半身用の服(または従来どおり女性のシャツ類)のときだけ top(s)(1枚であれば単数形)を使い、それ以外は jacket や shirt など具体的な言葉を使うほうがいいでしょう。
なお、いくつかの辞書が載せていた upper garment は、「上半身用の衣服」という説明的な表現のためファッション業界や若者を中心に使われる言葉の「トップス」の英語として適切とは言えないでしょう。