オンライン和英辞書や英語学習サイトの英語訳を訂正・修正・補足して解説する『Eiton English Vocablog』。第17回は「ワインクーラー」と「ワインセラー」の英語についてです。
◆当ブログはアメリカ英語とイギリス英語が対象です。その他の英語では表現が違うことがありますのでご注意ください。
Calek / Shutterstock.com
↑「ワインセラー」として販売されているワイン用冷蔵庫。本物のワインセラーがこれを見たら怒るだろう...
まず、オンライン和英辞書や英語学習サイトで「ワインクーラー」と「ワインセラー」はそれぞれどう英語に訳されているのでしょうか?
見つかった訳語とその訳語を載せた辞書・サイトをアルファベット順に記載します。
インターネット上の英語訳
1. ice bucket
2. wine bucket
3. wine cooler
インターネット上の英語訳
1. wine cellar
bab.la(辞書)
CUERBO(辞書)
英辞郎 on the WEB(辞書)
Glosbe(辞書)
goo(辞書)
Imagict(辞書)
実用・現代用語和英辞典(辞書)
Linguee(辞書)
Reverso Context(辞書)
産業翻訳だよ! 全員集合(辞書)
Weblio(辞書)
WebSaru(辞書)
Yahoo!知恵袋
ご覧のとおり、「ワインクーラー」は wine cooler の他に bucket が付く表現を載せている辞書がありましたが、「ワインセラー」はすべての辞書が wine cellar と訳していました。wine cooler と ice/wine bucket の違いは一体何でしょうか? また、「ワインセラー」は本当に wine cellar なのでしょうか?
以下では、どの辞書・サイトも載せていなかった表現も含め、「ワインクーラー」と「ワインセラー」の英語について分かりやすく説明します。
「ワインクーラー」とは
まず、「ワインクーラー」という名前のカクテルもありますが、今回説明する「ワインクーラー」はワインをボトルごと冷やすのに使う器具のことで、英語版ウィキペディアの『Wine accessory』のページでは以下の4つのタイプがあることを説明しています(分かりやすいよう順番を変えて説明します)。
1つめのタイプは日本語で「ワインクーラー」や「シャンパンクーラー」と呼ぶバケツで、氷を入れてワインやシャンパンをボトルごと冷やします。このバケツ式クーラーは英語で wine cooler 以外にも wine bucket、champagne bucket、ice bucket と呼ばれるため、例えばレストランで wine cooler と呼ぶと同名のカクテルと間違われそうな場合は wine bucket と呼ぶといいでしょう。
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↑氷入りバケツの中で静かに冷やされるワインボトル。
このバケツと似ていながら氷を入れるスペースのないスリムな断熱ワインクーラーが2つめのタイプです。このタイプは冷蔵庫から出したボトルを卓上で保冷するのが目的で、insulated wine cooler や(二重構造であれば)double wall(ed) wine cooler などの名称で売られています(glacette と呼ぶ人もいるようです)。
Eliens / Pixabay.com
↑これが断熱ワインクーラー(この写真のものは少し幅が広い)。保冷しかできないのに "cooler" だなんて許されるのか?
3つめのタイプはワイン用冷蔵庫で、冒頭の写真の「ワインセラー」と同類のため後で詳しく説明します。
4つめのタイプはボトルの首の部分に氷の輪をかぶせてボトル内のワインを冷やすもので、これを先ほどの英語版ウィキペディアのページでは ice ring wine cooler と表現しています。
Ice Bucket では誤解される場合がある?
今回調べたサイトの中には、海外のホテルでワインクーラーやシャンパンクーラーを頼む際に "ice bucket for wine/champagne" と説明してもアイスペール(水割りを作るときなどに使う氷を入れた卓上の容器)を持ってこられて困るという投稿がありました。ice bucket は単に「氷入りバケツ」という意味のためアイスペールにも使われる表現ですが、"for wine/champagne" と説明しても間違われるのは興味深い話です。
もしかするとスタッフは「wine cooler や wine bucket ではなく ice bucket for wine と言うからにはグラスに氷を入れてワインを飲むのが好きなのか?」と考えて親切にアイスペールを持ってきたのかもしれません。
「ワインセラー」とは
さて、「ワインセラー」には2つの意味があり、1つは次の写真のような「ワイン貯蔵室」、もう1つは冒頭の写真で紹介した「ワイン用冷蔵庫」です。
Mr_Incognito_ / Pixabay.com
↑これが本物のワインセラー (地下のワイン貯蔵室)。ワインを樽ごと寝かせて発酵させる。
skeeze / Pixabay.com
↑こちらは樽ではなくボトルを寝かせている状態。自宅にワインセラーを作る場合はもちろんもっと小規模。
ワイン用冷蔵庫には主に2タイプあり、ワインの長期保管(熟成)に適した加湿機能などがあるものは「ワインセラー」、そのような機能がないものは「ワインクーラー」(これが先ほどの3つめのタイプのワインクーラー) と区別するのが正しいようですが、先ほどの1と2のタイプの容器が日本では「ワインクーラー」として有名なためかどちらのタイプも一般の通販サイトでは「ワインセラー」というカテゴリーで売られています。
英語でも加湿機能などがないタイプ (=ワインクーラー) は wine cooler と呼ばれていますが、単に「ワイン用冷蔵庫」を意味する wine refrigerator (または省略形の wine fridge) という表現も使われています。以前は小型の冷蔵庫が wine cooler で大型のパワフルな冷蔵庫が wine refrigerator/fridge と区別されていたようですが、今はサイズに関係なくどちらの表現も使えるようです。
一方、加湿機能などがあるタイプ (=ワインセラー) は wine cellar や wine cabinet と表現されています。ただ、wine cellar という言葉は「ワイン貯蔵室」を意味するのが普通で、wine cabinet は冷蔵機能がないワイン保管用の戸棚にも該当する表現のため、細かい機能の違いなどを知らない一般の人にはこのタイプも単に wine cooler や wine refrigerator/fridge と表現するほう理解されやすいでしょう。
結局どのタイプも Wine Cooler と呼んでいい?
ここまでワインクーラーとワインセラーの違いも含め4タイプのワインクーラーについて説明してきましたが、他のタイプのワインクーラーや同名のカクテルと間違われる可能性がない状況ではわざわざこれらを (1) wine bucket、(2) insulated wine cooler、(3) wine refrigerator/fridge、(4) ice ring wine cooler のようにタイプ別の名称で呼ばず、単に wine cooler (または wine chiller) と呼ぶのが普通です。
先ほど説明したとおり日本では「ワインクーラー」という言葉はワインを冷やす容器(1と2のタイプ)の意味で使われるのが普通で、ワインを販売する大手ビールメーカーでさえワインクーラーのことを「電気を必要としない」や「アウトドアでも使える」と説明していますが、英語圏(や日本のワイン用冷蔵庫販売サイトなど)では加湿機能などがないワイン用冷蔵庫も wine cooler と呼ばれています。
以上、お役に立てる内容だったでしょうか?「ワインクーラー」の英語に wine cooler しか載せていない辞書は、少なくとも wine bucket は載せておくべきでしょう。また、加湿機能などがないワイン用冷蔵庫も日本では「ワインセラー」として売られていることが多いため、「ワインセラー」の英語にも wine cooler や wine refrigerator/fridge を載せたほうがいいかもしれません。
通販サイトも加湿機能などがあるタイプ (=ワインセラー) とないタイプ (=ワインクーラー) の両方のワイン用冷蔵庫を含むカテゴリーを「ワインセラー」ではなく「ワイン用冷蔵庫」にするのがいいと思いますが、どうしてもカタカナを使いたい場合は「ワインフリッジ」にすればいいでしょう。
ここまで bucket を「バケツ」と呼んできましたが、「ワインバケツ」や「シャンパンバケツ」と呼ぶと何だか汚い感じがしますので(特に「シャンパンバケツ」は滑舌の悪い人が前半を不適切に発音してしまうと大変汚いものになりますので...)、あのバケツ式クーラーは「ワイン/シャンパンバケット」と呼ぶのがいいでしょう(一部のメーカーはすでにこの名称で販売しています)。